incest 自分よりも重く大きい身体を支えながら、仗助は隣の部屋のドアを開けた。 そして怒り任せに投げ飛ばすようにして、その男をベッドに沈める。 「あんなに飲みやがって、いい加減にしろくそじじい!」 仗助はベッドに転がっている若い男に向かって、怒りの声を上げた。 まだ成人手前の外見だが、この男は仗助の父親であるジョセフだ。 どうしてこんな姿になってのかは原因が分からないので説明は省くが、今ではすっかり見慣れてしまった。 先ほどまで仗助とジョセフは、隣の承太郎の部屋に居た。 最初は普通に話をしていたのだが、ジョセフは承太郎の私物である酒を勝手に飲み始めたのだ。 いくら何でも図々しいにもほどがあると思ったが、承太郎は特に何も言わなかったので結局黙るしかなかった。 正直言って承太郎はジョセフに甘すぎる。やりたい放題されても怒らずに、あっさりと受け流している。 確かにふたりの付き合いは長く、その間には仗助の知らない色々なことがあったに違いないので、絆は相当強いはずだ。 日々、胸の内にたまっていくすっきりしない何かの正体が嫉妬だとすれば、それはどちらに向けられたものなのだろう。 自分のことなのにはっきりとは分からないままだ。 「俺、そろそろ帰るからな! そのまま朝まで寝てろ!」 そう言った後でベッドから離れようとしたが、ジョセフに背を向けた途端に腕を掴まれた。 その強さに胸騒ぎがして振り返ると、目を覚ましているジョセフがこちらを見ていた。今まで見たことのない、真剣な表情で。 それを見た仗助は動揺した。まさかあの、いつもふざけた調子で接してくるこの男が、こんな顔を見せるとは思っていなかった。 「もう帰るのか?」 「当たり前だろ、今何時だと思ってるんだ」 仗助はそう言って、夜の8時すぎを示した腕時計を指差した。 「俺、もう少し仗助と一緒に居たいんだけど。明日は学校休みだろ……だめか?」 「……おい、じじい。何マジになってんだよ」 「マジだからに決まってんだろ」 その表情も言葉も、どう考えても自分の息子に向けるようなものではなかった。何となく身体の力が抜けて、ベッドの端に腰を 下ろす。 「あんた……どうかしてるぜ」 「きっと、お前と居るからだろうな。俺と仗助は、今みたいにこうしてずっと一緒に居られるわけじゃねえから……俺の中の仗助 を、少しでも強く確かなものにしたい。覚えていたいんだよ、お前のことが好きだから。死ぬまでずっと」 最後の言葉に、仗助は激しく動揺した。今は青年の姿をしているが、本来のジョセフは高齢だ。できれば考えたくなかったが、 何もかもが解決してジョセフがアメリカに帰った後は、2度と会うことができなくなるかもしれない。 いつ、どこに居ても全ての人間に時間は平等に訪れる。戻ることも、永遠に止めておくこともできない。ただ進んでいくだけだ。 「どうした、急に悲しそうな顔してさ」 「何でも、ねえよ……」 目を伏せて黙り込んでいると、ジョセフに後ろから抱き締められた。 「やめろよ、こんなこと」 「何で?」 「好きだとか何とか……それに俺とあんたは親子なんだぜ? こんな、女を口説いてるみてえなこと、おかしいだろ」 「お前が嫌ならもうしないから、このまま家に帰って、全部忘れてくれ」 仗助を抱き締めていたジョセフの腕の力が緩んだ。今なら予定通りに家に帰れる。最初からそのつもりだった。 そのはずが、何故か身体が動かない。ジョセフの腕を振りほどけない。 このままだと流されてしまう。いつもとは違う調子で迫るジョセフに、戻れないところまで。 「……帰らなくて、いいのか?」 遠慮がちな囁き声とは逆に、ジョセフの体温や腕の強さが更に生々しく伝えられてくる。本当は仗助を帰す気などないのだと思う。 強引に言うことをきかせようとするよりも、情に訴えたほうが有効だと考えているのか。だとすればこの男は、悔しいが人の心を 見抜くことに相当長けているようだ。 「どうせ俺を、帰す気なんかねえんだろ」 「さあ……どうだろうな」 「この、エロじじい……っ、あ」 シャツの裾から入りこんできたジョセフの手が、仗助の胸に触れて乳首を摘まんだ。 「そんな声出して……父親の俺にいじられて、しっかり感じてんじゃねえか」 「あんたが悪いんだろ、調子に乗りやがって」 「俺のせいにすんの? あんなにいい声出してたくせに」 感じてしまったのは確かだったので、仗助は羞恥で唇を噛んだ。自分はすでに、まともではない道にそれているのではないかと 思った。 もう、おかしくなりそうだ。 シャツ越しにジョセフの手に触れ、仗助は息を震わせる。 「なあ、俺のことを好きだって……忘れたくねえって、あれは信じていいのか」 「信じてくれるのか?」 「もし、向こうに帰っちまった後もずっと俺のことを好きでいてくれるって、絶対に約束できるなら……」 この先を口に出してしまえばもう、後戻りはできなくなる。覚悟して言い出したはずが、急に恐ろしくなった。 少しの間、口を閉ざしていると背後に居たジョセフが仗助の隣に腰掛けて、視線を合わせてくる。やはりいつものふざけた雰囲気 は、欠片も見えない。 「大事なことなんだろ、ちゃんと聞かないとな」 ジョセフのそんな言葉に、胸がじわりと熱くなる。いつもは真面目な言葉を聞けないせいか、心の底から嬉しかった。 もうこの男となら、どうなってもいいとすら思ってしまった。 「俺にも、あんたを忘れられねえようにしてほしい」 仗助がそう言うと、ジョセフは一瞬驚いたような顔をした。しかしすぐに目を細めて、穏やかに微笑む。 「ああ……約束するよ」 ジョセフの唇が仗助の目蓋にそっと押し当てられ、これからする行為の始まりの合図のようなそれを、仗助は静かに受け入れた。 硬くなったジョセフの性器を押しこまれて、仗助は思わず息を飲んだ。とんでもないことをしている自覚はあったが、今更やめる気 はなかった。未知の世界への不安や好奇心、そして背徳感が入り混じってこの身体を支配している。 「い……っ」 想像以上の苦痛に声を上げ、涙まで浮かんできた。始めからこれでは、終わった頃には一体どうなってしまうのだろう。 ジョセフは腰を進めながら、仗助の涙を舌先で舐め取った。くすぐったいような気分になり、緊張が少しだけほぐれる。 「俺は、ずっと忘れねえから。あんたの今の顔も、感じてる痛みも、全部」 「仗助……」 「あんたが今、酔ってるのは分かってるんだ。それでも……このことを、今だけのものにはしたくねえ。ここまで求めちまう俺って きっと、重い奴なんだろうな」 やがて全てを仗助の中に納めたジョセフから、仗助に唇を重ねてきた。まるで恋人にするような甘く深いくちづけに、身も心も 夢中になる。ジョセフにしがみつくと、逞しい裸の胸や背中がうっすらと汗ばんでいた。この肌の下に、同じ血が流れている。 「仗助にそこまで言われて、嬉しくないわけねえだろ」 「だったら、最後までしてくれよ……」 「俺も、したい」 血の繋がりすら忘れて求め合う。誰とも恋愛をした経験もないうちから、男とのセックスを覚えてしまった。しかも実の父親と。 ジョセフがアメリカに帰ってしまって会えなくなったら、変わってしまったこの身体をどうすればいいのか。抱かれたい欲求を抑えられずに、誰かに足を開いてねだる自分の 姿を想像して、仗助は恐怖を感じた。 翌朝、目が覚めるとジョセフのベッドに全裸で寝ていた。目線を動かした先には隣でまだ眠っているジョセフが居る。 夢でも何でもなく、父親であるジョセフと許されない関係になった。口説かれた結果とはいえ、最後は自ら望んで受け入れたのだ から、後悔はしていない。 ジョセフが目覚めたらまずは、何を言おうかと考えた。もしかすると何も言えなくなるかもしれない。抱かれていた最中、恥ずかしい ことを言ったりされたりして、いつもの自分を見失っていたのだから。 余韻に浸りながらジョセフの髪に触れた時、閉ざされていた目が開いて仗助をとらえた。 「あ、起きたのかよ」 「……じょう、すけ?」 「昨日は俺、色々と変なとこ見せちまってさ」 恥ずかしさと緊張で上手く話せずにいる仗助を、ジョセフは呆然とした表情で見ている。何かが変だと気付いた直後に、ジョセフが とんでもないことを言い出した。 「仗助お前、なんでここに居るの?」 「……はあ!?」 あまりにも衝撃的で、仗助は一瞬何が起こったのか理解できなかった。 「いやー、昨日の夜に承太郎の部屋で酒飲んでたのは覚えてんだけどさあ、どうやってここに帰ってきたのかは全然分かんないんだよね! 気が付いたらベッドの上で寝てたしさ……あ、もしかしてお前が連れてきてくれたの? ありがとね、好きよ〜ん!」 「それ……本気で言ってんのかよ」 「え、あれ? 仗助怒ってる?」 どうやら昨夜の件を全く覚えていないらしいジョセフに、仗助は怒りを抑えられない。何もかも初めてだったのに、全て裏切られた 気分になった。もう、こんないい加減な男の言うことなど絶対に信じない。 「このくそじじい! ブッ殺す!」 「え、あっ、ちょっと待っ……仗助ー!!」 スタンドを出しながら我を忘れて殴りかかると、ジョセフは慌てた様子で自らのスタンドであるいばらのツタを出して防御した。 |