希望の星 このカラフルな星柄からヒトデを連想した承太郎の機嫌が良くなって、それを穿いているお前まで愛しくなってきたぜなどと囁かれる妄想が止まらない。 日曜の昼過ぎに承太郎のホテルを訪ねる約束を取り付けた仗助が、早速小遣いを握り締めて町まで買いに走ったのがこの下着だ。ブランド関係なく柄だけで選んだトランクス。 正直言えば今は本人の前で服を脱ぐような関係ではなく、しかしチャンスというものはいつどこで発動するか分からない。ちょっとイイ雰囲気になったらさりげなく接近して告白する作戦は、いつも未遂で終わっていた。 自分に勇気が足りないせいもあるが、何より向こうが既婚者で仗助とは血縁で男同士という最悪三重苦が計画を阻むのだ。 問題は色気のかけらもない現在の進展具合から、どうやってこの下着を見てもらうかどうかだ。承太郎さんおれのパンツ見てくださいよ、と言おうものなら機嫌次第ではスタンド攻撃を食らうかもしれない。運が良くても完全に変態扱いだ。 そんなわけで迎えた日曜。朝から念入りに髪型のセットを行い、着て行く服をデート前の女子のように手持ちの中から厳選した。例の下着も穿いたので、後は承太郎のホテルに向かうだけだ。 準備が終わったので用を足そうとしてトイレに入り、ジーンズを下げたところで突然玄関から呼び鈴が鳴った。あいにく母親の朋子は不在で、自分が対応するしかない。 しつこく再び鳴らされたところで慌てて身なりを整え、トイレを出る。溜まっていたものを解き放つ瞬間を邪魔されたので、最高のお楽しみイベントを前にして気分が悪くなった。 「はいはい……って、ええ!?」 玄関のドアを開けるとそこには、ホテルで待っているはずの承太郎が立っていた。彼がいつ見ても男前なのはともかく、今日は仗助が出向く予定だったはずだ。間違えたのだろうか。 「少し早いが迎えに来た」 「えっとあの、今日はおれがそっちに行くはずでは」 「そうだったか? 悪い、こちらの勘違いだ」 「と、とにかくここじゃ何ですから中に入ってくださいよ」 承太郎をこんなところで待たせるわけにはいかないので、仗助は彼を家の中へ導く。少し予定は変わってしまったが、とりあえず良しとする。こうして会えたのなら気合いを入れた髪型も服も、無駄にはならない。 靴を脱いだ承太郎の前を歩き、リビングに踏み込んだ途端に足元からばさっという音と共に下半身がやけに涼しくなった。ちらりと視線を下げると、トイレで上げてきたはずのジーンズが足元に落ちて脱げていた。完全に。 変な汗が額からにじみ、予定外の場所で勝負下着丸出しという間抜けな格好を承太郎に見られないうちに、さっさと直してしまおうとしたが遅かった。呼び鈴が鳴って慌てていたので、金具をしっかり留めていなかったのだ。 「仗助、脱げているぞ」 「わ、分かってますよ! お願いだからあんまし見ないで……」 見せたかったはずの下着だが、見られたくないタイミングで披露してしまった。いつの間にか真横に来て、ジッパーを上げている仗助を眺めている承太郎の視線が本当に辛い。もちろん星柄についてのコメントはもらえなかった。 その日は結局、母親が帰ってくるまで仗助の家で話をしたり宿題を見てもらったりと、きわめて健全に過ごした。これが血の繋がった甥との正しい関係なのだろう。 何も考えずに星柄の下着を洗濯かごに放り込んだ翌日、洗濯を終えた母親から「あんな派手なパンツ、いつどこで買ったのよ」と突っ込まれ、前日とは違う意味で気まずかった。 |