汚れた思い出 自分は絶対に道を踏み外すことはないと思っていた。 11年前の旅をきっかけに、祖父であるジョセフに対して抱き始めた特別な感情。 よく考えなくても普通ならば有り得ないことだ、孫である自分が祖父に欲情することなど。 幼い頃に可愛がられた思い出を、汚れたものに塗り替えていくような衝動と何年も戦ってきた。1度でも開き直ってしまえばそれからは、転がり落ちるように何もかもが歪んでいく。 幸いなことにジョセフは、こちらの気持ちには気付いていない。このまま死ぬまで、永遠の秘密として心の奥底に沈めておくつもりでいた。それが最良の選択だと思っていた。 承太郎自身はやがて結婚をして子供も生まれた。そして時が経つごとに年老いていくジョセフを近くで眺めながら、全てが上手く行くと確信していた。 しかしジョセフが息子に会うために日本を訪れてから、事態は一変した。79歳の老人であったジョセフは何かを機に突然、18歳の青年の姿になったのだ。 それまでの記憶は残っているが、見た目も性格も承太郎の知らないジョセフに変わってしまった。自分よりも10歳年下になった祖父は、若い身体と体力を持て余して毎日 やりたい放題振る舞い始めた。そんな厄介な事情を知っているのは自分と仗助、そしてスタンドの力で強引に若いジョセフの正体を暴いたという、杜王町に住む漫画家だけだ。 この異常な状態を終わらせようとする中で、気付き始めた。若いジョセフは想像以上に勘が鋭く、人の心を読むことに恐ろしいほど長けているのだと。 こちらの感情を隅々まで探ろうと視線を向けてくるジョセフが、承太郎の心の隙に入り込んで離れない。 ぴちゃっ、とかすかな音が聞こえて我に返った。ベッドの上で、温かい粘膜に刺激されている性器はすでに勃ち上がり力を増している。 癖のついた黒髪を揺らしながら、ジョセフが承太郎の性器に吸い付く。唇を離すと絡めていた唾液が滑り落ち、根元の膨らみを濡らした。あまりにも生々しい光景に、 目を逸らしたくなる。強制的にやらせているわけではなく、むしろジョセフが襲いかかってきた結果だ。 日付が変わる頃に部屋を訪ねてきたジョセフは、 仕事を進めるためにパソコンに向かっていた承太郎を甘い言葉で口説き始めた。仕事のことで頭を満たして無視を決め込もうとしたが、名前を呼ばれて耳を軽く噛まれた 途端に理性が崩れてしまった。 その外見とは逆に中身は長年、承太郎と共に過ごしてきた祖父だ。更に若い頃独特のものらしい開放的なノリが加わり、すっかり押し負けた承太郎は、 結局ジョセフの気まぐれに付き合う羽目になった。 「お前ってさあ、俺のこと好きなんだろ」 承太郎の性器に舌を這わせていたジョセフが、唐突に問いかけてきた。何かを企んでいるかのように、意味深に細めた目がこちらを捉える。やはり全て読まれていたのだ。 「何かと思えば……わけのわからないことを」 「ごまかすなよ。バレバレなんだぜ、お前の考えなんてさ」 そう言って笑うと、再び口での愛撫を続けた。どうすれば相手が気持ち良くなるか、把握している動きだった。拙さなど全く感じさせない。若い頃にどこかで覚えたのかも しれない。まさか誰かに仕込まれたのかと想像すると、全然笑えなかった。 男を相手に、しかも自分の孫に対して何のためらいもなく淫らな行為を望むジョセフは、 承太郎とは比べ物にならないほど、どこか歪んでいるのだと思う。 俺って実は結構寂しがり屋なんだぜ、というジョセフの囁きが頭によみがえった。ということは、寂しさを紛らわすために孫を誘惑したのだろうか。 欲望を煽られて流された自分も人のことを言える立場ではないが、まるで当然のように孫を巻き込むジョセフには敵わない。 「なあ、そろそろ限界じゃねえの? 承太郎のここ、やる気満々だぜ」 「あんたはどうしたいんだ、じじい」 「まあ……せっかくだし、こっちで美味しくいただいちゃおっかな」 その言葉に眉をひそめた承太郎にも構わず、ジョセフは下半身を覆っていたものを全て脱ぎ捨てる。こいつは最後までやるつもりか、と直感してさすがにまずいと思った。 手や口で射精させられるくらいならまだいい。本当はそれだけでも充分に道を踏み外しているのだが、それだけならば少々の気まずさで済むと考えていた。しかしジョセフが、 最後まで行き着くことにも抵抗がないとは。 「俺はあんたの孫だ、それも忘れてやがるのか」 「何言ってんの、今更」 「これ以上、じじいの気まぐれに付き合う気は……」 亀頭の割れ目を指先で抉られ、承太郎は小さく呻いた。突然強い刺激を受け、すぐに射精するところだった。先ほど脱いだ下着の奥から現れたジョセフの性器も、すでに 反り返っていた。それを見て承太郎は息を飲んだ。ジョセフは孫の性器をしゃぶりながら、自身も興奮していたのだ。 「俺とセックスしたいんだろ、素直になっちまえよ」 「誰が……!」 「昔からずっとおじいちゃんっ子だった、お前だよ」 承太郎を目で射抜きながらにやりと笑うジョセフは、まるで獰猛な獣のようだった。本来の老人の姿をしていた祖父は、こんな笑い方はしない。 ジョセフの腸壁の熱さを感じながら、承太郎は息を震わせた。苦痛を伴うはずの行為にも平然としているジョセフを見ていると、こちらが犯されている気分になる。 根元までゆっくりと腰を落としていくジョセフに唇を奪われる。潜りこんできた舌が触れ、絡み合っている間にもジョセフは腰を動かして承太郎の性器を擦り上げていく。 若い身体になった祖父の痴態を見て、興奮している自分は本当にどうかしている。至近距離からの熱っぽい視線、喘ぎ混じりの息遣い、そして首にまわされている両腕。 ジョセフは老人の身体に戻ると、若返っていた時の行為の記憶は封じられる。承太郎を誘惑したことも、こうして許されないセックスをしたことも。 しかしもう今までのような、祖父と孫の関係には戻れない。自分は壊れてしまったものを蘇らせる力は持っていないのだ。 「分かるか……俺の中が、お前のでいっぱいになってんの」 「孫のを咥えこんで、気持ち良さそうに喘ぎやがって。とんだ変態じじいだな」 「気持ちいいこと好きなんだから、しょうがねえじゃん」 人間なら誰でもそうだろ、と言うとジョセフは唐突に承太郎の性器を強く締め付ける。不意打ちの刺激を受けて、ジョセフの腰を掴む手に更に力が入った。 「なあ承太郎、このまま中に出すだろ?」 「欲しいなら、全部くれてやるよ」 「……っあ、やばい、今の囁きで俺いきそうになった」 「いけばいいじゃねえか」 互いの腹の間で擦られていた性器を握ってやると、ジョセフは身体を震わせて射精した。力が抜けたらしく縋りついてくる温もりを感じながら、承太郎もジョセフの中で達し、 ためらうことなく精液を注ぎ込んだ。 これは何年もずっと、自ら望んでいたことだ。抑えられない激しい欲望のまま、ジョセフを道連れにして再び這い上がれなくなる場所まで堕ちることを。 決して越えてはならない領域に踏み込んでしまった。後はどこまでも流されていくだけだ。 「もしもし仗助? え、呼んでないって? そんな冷てえこと言うなよ、俺の可愛い息子超愛してるぅっ、あ……! え? 別に何でもねえよ、もしかして心配して くれてんの……っ、ん」 承太郎が突き上げるたびに、携帯電話を片手に話すジョセフが喘ぐ。しかもそれを電話の相手に気付かれないようにごまかしている。こうして覆い被さった体勢だと、 性器を咥えこんでよがるジョセフの表情がよく見える。体勢的にも有利なので、完全にジョセフを支配している気分になった。普段は掴みどころのない、飄々とした祖父を。 翌日の昼間から再び身体を重ねていると、承太郎の携帯に仗助から電話がかかってきた。ちょうどジョセフの後ろの穴を解して挿入したところだったが、何でもない振りを して会話を続けている最中、強引にジョセフに電話を代わったのだ。いくらセックスの最中とはいえ、可愛がっている息子をジョセフがないがしろにできるわけがない。 「……仗助の声聞きながら、イッちまえよ」 口の端から唾液をこぼしながら揺さぶられているジョセフに、承太郎は小声で言い放つ。 仗助と会話しながらも、ジョセフは行為に溺れ切ったとろりとした目つきで承太郎の腰に両足を絡ませてくる。 「んぅっ……じょう、たろ、俺もうイッちまう……!」 ジョセフの手から携帯電話が離れ、ベッドの下に落ちていく。通話は続いたままか、それとも終わっているのか分からないが、 前者なら声は明らかに仗助に聞かれているだろう。 そう思いながら、承太郎は身体を倒してジョセフの唇を貪った。 |