リグレット 携帯にかかってきた電話に何度か短い返事をした後、承太郎は部屋を出て行った。 財団に呼ばれたらしい。それ以外のことは口に出さなかった。そして残されたのは仗助と、この部屋の主であるジョセフだけだ。 「承太郎は忙しい奴じゃのう」 「……そうだな」 閉まったドアを呑気に眺めるジョセフに、仗助は目を伏せて答えた。血の繋がった親子がふたりきりという状況は別に、異常でも何でもない。 しかし仗助は、このままジョセフとふたりでいるのは良くない気がした。というより、これから自分の身に降りかかってくる何かをぼんやりと想像しただけで落ち着きを失ってしまう。 何も起こらないうちに部屋を出ようと思い腰を浮かせると、突然名前を呼ばれた。 「もう帰ってしまうのかの?」 「承太郎さんも行っちまったし、俺もそろそろ家に」 「あいつがいないと、わしとは一緒にいてくれないのか……寂しいのう」 哀れみを誘うような視線を向けてくるジョセフに、仗助は何も言えなくなってしまう。年寄りであることを利用して、仗助を思い通りに動かそうとしているのが見え見えだ。 よくもぬけぬけと。この前に自分の息子にあんな酷いことをしたくせに、罪悪感のかけらも感じていないに決まっている。 もしそんなものがこの男に存在しているのなら、あんなにやりたい放題振る舞えるはずがないのだ。 「分かったよ……もう少しだけな」 「そうか。さあ、こっちに来なさい」 細めたジョセフの目が、先ほどまでとは違う暗い色に染まる。それを見たのは仗助だけなのか、他の人間にも見せたことがあるのかは分からないが、 いつもの穏やかな雰囲気からは想像できないものだった。身体の奥がぞくぞくした。 仗助は、向かいの椅子に座っているジョセフのそばまで歩み寄る。そして目線の高さを合わせるために身を屈めると、顔を近づけてきたジョセフと唇が重なった。 まだ慣れていない感覚に小さく震える仗助は抱き寄せられて、そのはずみでくちづけは更に深くなった。絡み合う舌と、いやらしく濡れた音に気が遠くなりそうだ。 いっそのこと、ここで意識を無くしてしまえば楽になれるのに。最中に小さな声を上げながら、ジョセフの肩にしがみついてしまった。 歳の離れすぎた自分の父親と、許されない行為をしている。しかしこの前、ジョセフの手で射精してしまってからは、それまで知らなかったものをこの身体と心に刻み込まれた。 もう取り返しのつかない、浅ましく歪んだ快楽を数分前まではあれほどためらっていたはずが、1度始まってしまえばこうして恐ろしいほど従順になっている。 どこかで聞いたことのある、身体に火がつく状態というのはまさにこういうことかもしれないと、仗助は思った。 情に流されて受け入れてしまったことを今更後悔しても、もう遅すぎる。 やがて唇が離れると、ジョセフは薄い笑みを浮かべた。 「仗助は反応が可愛いから、つい構いたくなってしまうんじゃよ……もっと楽しませておくれ」 「調子に乗りやがって、この変態じじい!」 「わしの知らなかった16年の間に、こんなにまっすぐで素直な子に育ってくれて嬉しいのう」 ジョセフの手が仗助の背中から腰、そして更に下へと動く。制服のズボン越しに尻の割れ目を指で何度も愛撫される。そのくすぐったい感覚に仗助が思わず腰を揺らすと、ジョセフは気を良くしたのか、 尻の穴のあたりを少し強めに、ぐりぐりと抉るように刺激を与えてきた。熱い息をごまかすこともできない。 「わしのが欲しくなったかな? 仗助」 「自分で何言ってんのか、分かってんのかよ……!」 「可愛い息子ともっと仲良くなりたいんじゃよ。それともお前は、こんな年寄りの相手は嫌になってしまったのかのう」 手をそっと掴まれ導かれたジョセフの股間は、布地を突き上げる勢いで硬くなっている。 この男は本気で仗助を抱こうとしているのだと、改めて気付かされた。 「あんたのことは嫌じゃねえけど、これ以上のことはさすがにまずいだろ」 ジョセフの舌が仗助の耳を舐めたり、音を立てて吸いついてくる。そんな感覚に流されないように必死で耐えた。少しでも隙を見せれば、容赦なく入り込まれてしまう。 「分かった分かった、仗助は真面目な子じゃ。その代わり、わしを今だけじじいではなく『お父さん』と呼んでみてくれんか」 「えっ……!?」 何を要求されるのかと不安になっていたが、全く予想外の展開に呆然とした。そういえば初めて会った時からずっと、ジョセフに対して父親らしい呼び方をしたことはなかった。 何でもない振りをしながらも、仗助にそう呼ばれたかったのかもしれない。 仗助はジョセフの目を見つめながら、緊張気味に口を開いた。 「……と、さん」 「すまんのう仗助、もう1度言ってくれんか」 つい声が小さくなり、耳の遠いジョセフは本当に聞こえなかったようだ。また言わなきゃいけないのかと心底うんざりしたが、今度はしっかり聞こえるようにジョセフの耳元に唇を寄せた。 互いの距離が近くなる。 「お父さん……」 そう呼んだ後、急に恥ずかしくなり慌てて身を引いた。多分からかわれるだろうと思っていたが、ジョセフは優しく微笑みながら仗助を見ている。 この身体を愛撫していた時とは別人のようだ。 「ありがとう仗助、嬉しかったよ」 「そ、そうかよ……!」 頬が熱くなり、仗助はジョセフから目を逸らす。今日1番恥ずかしかったのは、まさにこの瞬間だと思いながら。 |