遠い世界から/番外編 「あんたに何が分かるんだよ! どうせ俺のこと、気持ち悪いって思ってんだろ。それでも俺は簡単に諦めらんねえ……」 ソファの上に押し倒した青年に、仗助は我を忘れて訴える。目頭が熱くなっていた。 『まさかてめえ、そういう趣味の奴か』 承太郎と限りなく似ているその顔で、そんな残酷なことを言ってほしくなかった。伝えなくても返ってくる答えは分かっていても、 できれば今ここで、こんな状況で聞きたくなかった。 気が付くと、今にも唇が触れ合いそうな距離まで青年と顔が近付いていた。 仗助は慌てて身を起こそうとしたが、その瞬間青年の方から顔を寄せてきて、ふたりの唇がしっかりと重なった。 あまりにも突然のことだったので、混乱してしまった。仗助の気持ちはお構いなしで、青年は明らかに慣れた調子で更に深いくちづけをしてくる。 仗助の舌を、濡れた音を立てながら自分の舌と重ね、絡めた。やがて唇が離れた後も、仗助は青年を見つめたまま呆然としていた。 「今の……何で」 「ああ?」 「だってあんた、俺をそういう趣味の奴かって言って……汚ねえもんを見るような目で見てただろ。それなのに、どうしてだよ」 「さあ、言ってたか? そんなこと」 青年はそう言うと、自分の濡れた唇の端を少しだけ上げた。それを見て仗助は、ずるいと思った。完全にからかわれている。 くちづけの余韻も消えていないというのに、今度は青年の膝が仗助の股間に押し当てられ、そのままぐりぐりと動かされた。 仗助はその刺激にびくっと身体を震わせ、思わず声が出てしまう。 「っあ、嫌だ……やめてくれ」 「やめろと言う割には、でかくなってきてるぜ」 息を乱す仗助を見て青年はますます楽しそうに膝を動かし、勃ち上がりかけている仗助の性器の形をなぞるように、愛撫し続ける。 「別に、気持ちいいならこのままでいいじゃねえか。責任取って、最後は俺が抜いてやるよ」 「だめ、だ……俺は、あの人に」 「なるほどな、初めては好きな奴がいいってことか」 このまま流されてしまうと、承太郎に合わせる顔がない。確かに青年の言うとおり、こういう行為を初めてするなら相手は承太郎がいいと、密かに思っていた。 この青年は年齢が違うだけの承太郎本人だが、それでもずっと憧れていたあの人とは別人だと、仗助は今のような状況でも自分に言い聞かせていた。 「あの人は、こんないやらしいことはしねえ。俺なんか相手にしたいわけ、ねえんだ……」 「さっきはあれだけ威勢が良かったくせに、ずいぶん弱気だな。もしかしたら、てめえがずっと気にしているそいつは口に出さねえだけで、 本当はどうにかされたいと思っていたりしてな」 「そんなわけな……っ!」 今まで青年が与えてくる愛撫に必死で耐えてきたが、熱っぽい目で仗助を求めてくる承太郎を想像してしまい、とうとう仗助は先走りで 下着を濡らしてしまった。 自分が愚かで情けない。承太郎とほぼ同じ顔のこの青年に言われたせいで、余計に生々しく思い描いてしまったのだ。 仗助の目から涙があふれ、頬を伝ってこぼれ落ちる。 「もう、出る……イッちまうよ、俺」 仗助が声を震わせて訴えると、青年の膝の動きが止まった。仗助は青年の手に触れ、自らの股間に導く。そこはすでに限界を迎え、あと少し刺激されれば すぐに射精してしまう。 「我慢したかったけど、やっぱりだめだった……俺、あんたにこんなことされてると、頭ん中ぐちゃぐちゃになっておかしくなるんだ。 せめて最後は、あんたの手でいきたい。なあ……だめかな」 どきどきしながら返事を待っていると、青年は身体を起こして向かい合う体勢で仗助のズボンのベルトを外し、ジッパーを下げていく。 先走りで濡れた下着の中から出された性器を握られた途端、仗助は呼吸を荒げた。 「俺の名前、呼んで」 仗助の言葉に青年は性器を扱く手を止めずに、耳元に唇を寄せてきた。 「……じょう、すけ」 快感と興奮で満たされた仗助には、その声は気が遠くなるほど甘く卑猥なものに感じた。 「承太郎さん……!」 小さな呻きと共に仗助が出した精液は、17歳の承太郎の手をねっとりと白く汚す。それを見て罪悪感よりも先に胸に生まれたのは、歪んだ悦びだった。 仗助の性器に腰をゆっくりと落としていく。熱い欲望に身体を貫かれながら、承太郎の頭を様々な思いがよぎっていった。 母親の命を救うために祖父や仲間達と共に日本からエジプトに向かい、DIOとの対面まであと一歩というところまで来て、何故かこの町に飛ばされてしまった。 しかも自分ただひとりだけで。一緒にあの穴に引きずり込まれたはずの祖父や花京院は、どこにも居ない。 見知らぬ町で一体どうすればいいかと思っていた時、この仗助に出会った。初めて見たはずのその顔は、馴染みの深い誰かに似ている気がした。今でもそう感じている。 しかし、それ以上は考えがうまく繋がらない。 まるで、更に探っていくことを許されないような深い闇の向こうに隠されている。今はまだ見えない、真実が。 「っ、は……あ」 仗助の性器が、承太郎の奥深い部分を突いてくる。背を反らし、小さく声を上げる承太郎を見て仗助は再び腰を動かして攻めてきた。 好きな相手以外とはしたくないと言って必死で承太郎を拒んで、涙まで流していた仗助が。今では自分から快感を追って求めている。 全てを狂わせた自覚はもちろんあるが、こうなることまでは考えていなかった。 仗助が、あれほどまでに入れ込んでいる相手。一体どういう奴なのか。 「俺にこんなことされて、気持ち良さそうな声出してよお……あんた、すげえいやらしいな」 「てめえ、さっきまではあんなに……!」 「そんな怖い顔して睨んできてるけど、あんたのここは気持ちいいって言ってるぜ。ほら、もうこんなになって……」 仗助は、承太郎の硬く勃ち上がった性器の先端に触れると、そこからあふれている先走りを指ですくい取り、承太郎に見せつけるように目の前に突きつけた。 室内の明かりを受けてぬらぬらと光るそれが、仗助の指を濡らしている。今の承太郎の現実を示すように。 このまま射精する瞬間の顔やその姿まで全て仗助に晒すことを想像して、承太郎は眉をひそめた。 身体の相性が良かったのか、ふたりはやがてほぼ同時に射精した。仗助の精液が中に流れ込んできて、承太郎は思わず身震いする。 ちらりと見えた、仗助の首筋あたりの痣の形をしっかりと確かめる余裕もないままに。 |