シークエンス 酒臭くなった部屋の中、ひとりで缶ジュースを飲んでいる仗助の耳に信じられない言葉が飛びこんできた。 「さて、わしはそろそろ部屋に戻るかの。仗助、後は頼んだぞ」 正面のソファに腰掛けて酒を飲んでいたジョセフが、そう言ってゆっくりと立ち上がる。 「えっ、ちょっ、じじい! どうすんだよこの状況!」 仗助は思わず立ち上がって問いかけるが、ジョセフはまた耳が遠い振りをしているのかこちらを振り向きもせずに部屋のドアに向かって歩いていく。 今日は土曜の放課後、仗助は久し振りに承太郎とゆっくり過ごしたいという下心を抱えてホテルを訪れたが、承太郎の部屋には例の赤ん坊を抱いたジョセフが居た。 祖父が隣の孫の部屋に居ても別に不自然ではないが、これでは承太郎と良い雰囲気になれない。じじい空気読め、と言いたいところだが、仗助の気持ちなど気付いて いるわけがない鈍感な承太郎は、たまには3人で過ごすのも悪くないと言い出した。 そして冷蔵庫から出した缶ビールや高そうな酒が次々と開けられ、ジョセフと承太郎は気持ち良くアルコールに浸った。 仗助には何本かの缶ジュースが用意されたので仕方なくそれを飲んでいると、いつの間にか時間が経ち気が付くと日付が変わる直前になっていた。 母親には承太郎のところに来ていると電話で伝えてあるので心配はされていないが、今の問題はそこではない。 ジョセフが部屋を出て行き、残されたのは素面の仗助と、そして隣で酒の入ったグラスを手に持ったまま黙りこんでいる承太郎だった。 待ち望んだふたりきりの状況も、これでは不安ばかりが募っていく。酔っているらしくぼんやりした目の承太郎は不気味なほど口を閉ざしており、何を考えているか分からない。 「あの、承太郎さん……俺も帰りますね」 「仗助てめえ、俺と居るのがそんなに嫌なのか」 唸りを上げる獣のような迫力で、酒のせいで頬を少し赤く染めた承太郎が正面から睨みつけてくる。 嫌ではないのだが、こうなった承太郎をどう扱えばいいのか分からない。ジョセフがさっさと自分の部屋に戻ってしまったせいで、とんでもない事態になった。足腰立たなくなるほど 恨んでやる。呼び方をさりげなく『じじい』から『ジョースターさん』に戻してやるのもいい。そこに込めた意味すら伝わらないかもしれないが。 承太郎は持っていたグラスをテーブルに置くと、先ほどまで仗助が座っていた場所を片手で何度か強く叩く。 「おい、ここに座れ」 「えっ」 「座れって言ってんだ、早くしろ」 戸惑っていた仗助だったが、承太郎が放つ迫力に押し負けて言うとおりにした。同じ場所に腰を下ろす。 すると承太郎は急に顔を近付けてきて、仗助の耳を軽く噛んだ。あまりにも突然すぎて混乱した仗助は「ひゃあっ」と情けない声を上げる。全く酒を飲んでいない のに、身体が一気に熱くなった。普段の承太郎なら絶対にこんなことはしない。 「変な声出しやがって……」 「誰のせいだと思ってるんすか!」 仗助が突っ込みを入れても、承太郎は離れようとしない。両肩をしっかりと掴まれているため逃げられず、ある意味で刺激が強すぎるシチュエーションにひたすら耐えるしかなかった。 やがて寄りかかってきた承太郎を支えきれず、仗助は巻き込まれるようにソファに倒れた。覆い被さってきている承太郎が、完全に有利な体勢だった。 首筋や頬にくちづけられた後、承太郎に唇を奪われる。これが仗助にとって生まれて初めてのキスだった。相手に不満はないが、酔いが醒めた後も承太郎が覚えていてくれる気がしない。 酒の味がする舌で執拗に絡め取られ、唇が離れていっても頭がくらくらしていた。 更に追い打ちをかけるように、承太郎の指が仗助の股間を上から下へと滑っていく。じれったいような感覚に、そこは確実に反応した。 「そんなことされたら俺の中の、健全な青少年のアレがやばいですから!」 「何、わけの分からねえこと言ってんだ」 「あんたには奥さんと娘さんが……!」 「今はお前だけだ」 強烈な口説き文句に、仗助は言葉を失う。 やばいやばいやばすぎる、と胸の内で繰り返し呟く。仗助は理性を抑えるのに必死だった。憧れの承太郎と良い雰囲気になりたくてこの部屋を訪れたものの、色々な順序を 飛び越えてしまっているような展開に振り回されっぱなしだ。 このままでいいのかと冷静に考える間もなくズボンのジッパーを下ろされ、勃ち上がりかけている仗助の性器に承太郎の指が絡んだ。 亀頭の割れ目から浮かび上がる滴を、承太郎がためらいもなく舌先で舐め取っていく。それでも強い快感で次々に溢れてくるのでキリがない。 酔った勢いとはいえ、やりすぎだと思う。そんな気持ちとは逆に、性器はもっと淫らな刺激を求めて承太郎の手の中で熱く硬くなっていく。最後は、その温かい口の 中で達することになるのだろうか。 性器の根元にある膨らみまで吸われ、舐められる。ここまで来ると完全に奉仕されている気分になってしまう。 「承太郎さんには、俺より大切なものがあるじゃないすか。なのに、何で」 「……俺にも、分からねえ」 仗助の性器から唇を離した承太郎が、小さく呟いた。その目には、少し前までの獰猛な獣のような迫力はない。 「酒のせいにして、お前に迷惑かけちまったな。悪いのは俺だ」 「お、俺だって……口では抵抗してたけど本当はすげえ気持ち良くて、どうにかなりそうだった。承太郎さんが悪いわけじゃねえ。だから謝らないでください」 「仗助……」 正気に返ったのか、承太郎は申し訳なさそうに仗助を見つめてきた。そんな表情を見て、責められるはずがない。 そういえば勃起した性器を出したままにしていた。承太郎の酔いが醒めた今、続きを期待するのは無理な話だ。名残惜しいという気持ちもあったが、それは心の隅に追いやる。 「俺、ちょっとトイレ行ってきます」 「もしかして、自分で抜いてくるのか」 考えを鋭く指摘されて、仗助は焦った。せめてこの場を離れ、やり場のない欲望をひとりで吐き出してくるつもりだった。 返事をする前に赤面した仗助の性器に、承太郎が再び触れてきた。そっと握られて、収まっていた快感がよみがえってしまう。 「えっ、その……離し」 「俺のせいだろう、何とかしてやる」 「何とか、って」 顔を伏せた承太郎の唇が、握っている性器に押し当てられる。口の中にゆっくりと沈んでいく様子を見て、仗助は息を乱した。やり慣れていないのか、喉の奥まで突いてしまったらしく 苦しそうな声が聞こえた。罪悪感と興奮が複雑に混ざり合う。 「じょ、たろさ、ん……」 温かい口内で、舌がねっとりとした動きで絡みついてくる。それだけでもたまらないのに、不意打ちで亀頭を強く吸われて一気に限界が来た。 身体をぶるりと震わせ、仗助は承太郎に咥えこまれたまま射精した。目が眩むほどの快感。閉じていた目を薄く開けると、承太郎の喉が何度も動いていた。 その口の端から、飲みこめずに溢れた精液がこぼれていく。まさか、そんなことまでするなんて。 まだ大切なことを伝えていなかった。承太郎さんが好きです、という一言すらも。自分の中で密かに思い描いていた順序が狂ってしまった。 |