Virgin





「やってみたいことがある」
「え、何ですか?」

ソファに座りコーヒーを飲みながら話をしていたところ、隣の承太郎から唐突に切り出された。
こうしてホテルを訪ねるのもどこかへ誘うのも常に露伴のほうからで、自分ばかりが承太郎を求めている気がしていたので、承太郎から何かを提案してくれるのは素直に嬉しい。

「先生、あんたに抱かれたくなった」
「……ん?」

思わず間の抜けた声を上げてしまった。

「もう1度言おうか」
「いや、大丈夫です」

真顔の承太郎に右の手のひらを向けて続きを遮る。別に聞こえなかったわけではなく、彼がそんなことを言い出したのが意外すぎて驚いたのだ。男同士なのだからどちらが抱く方でも、行為自体は可能だ。それに承太郎がこちらの愛撫に乱れる様には興味がある。 好奇心が刺激される……見てみたい。

「ぼく、男を抱いた経験ないんですけど」
「おれも男に抱かれるのは初めてなんだが、器用そうなあんたなら上手くやってくれるんじゃねえかと思ってな。期待してるぜ」

あの承太郎の初めてを奪えるなんて相当運が良い。自分は決してプレッシャーに弱い方ではないはずだが、彼が浮かべた笑みに胸騒ぎを感じた。


***


ベッドの上で全裸で抱き合いながらキスをする。まさか承太郎とのキスがこんな形になるとは思わなかった。感覚的に、色々な段階を飛び越えてしまった気がする。この後すぐにセックスをしてしまうのだから。
まだ舌を絡めている最中に大きな手で性器を握られ、扱かれると声が出た。

「っあ、いきなり、こんなの」
「これが勃たねえとできないだろ」
「あまり、されると……いくか、ら」
「おれより先にか?」

挑発的な囁きに目眩がしそうだった。これではどちらが抱くほうなのか分からないので、負けずに反撃しなくては。
承太郎の愛撫をもっと欲しがる気持ちを抑えながら、自分よりも遥かに逞しい身体をシーツに押し倒す。首筋や胸、腰に唇を落としながら吸いついた後、今度は露伴が承太郎の性器を握り、胸の尖りを舌先でくすぐりながら扱いていく。 時折歯を軽く立てると、頭上で呼吸が震えた。

「気持ちいいですか?」
「……ああ」
「良かった」

手の中の性器が硬く熱を帯びて、とろりとあふれた先走りが露伴の指を濡らす。ふたりの息遣いが混じり合い、空気を卑猥なものに染めていく。雰囲気が良くなったところで、次に進むための準備を始める。

「どの体位がお好みですか」
「任せる」
「ちょっと! そっちから誘ってきたくせにマグロとか有り得ないですよ?」
「悪い、やる気の問題じゃねえんだ。こういう立場は慣れていなくてな」

話をして帰るつもりで来たので、セックスのための準備は何もしていない。当然ローションを持っているはずもなく、ぬめりのある体液で代用するしかなかった。
自慰はいつも性器を扱くだけで、後ろに指や玩具を入れたことはない。なのでどこをどうすれば相手が気持ち良くなるのか分からないまま、承太郎の腸壁を指で探る。こうなる前にゲイの記憶を読んで勉強しておくべきだった。
特に狙ったわけでもない部分を擦った瞬間に、かすかな呻きと共に目の前の性器が反応した。重点的にそこを攻めてみると次第に承太郎の様子がおかしくなり、指がきつく締め付けられる。今挿入しているのが性器だったらと思うと、腰のあたりにじわりと熱い痺れを感じた。
最初よりは拡がったそこから指を抜き、承太郎の感じている姿を見てすっかり反り返っていたものを代わりに押し当てた。さすがに冷静ではいられないのか、眉を寄せてこちらを見上げる承太郎にますます気持ちが昂る。
てっきり承太郎を慕っている仗助あたりに身体を許しているかと思っていた。露伴を選んだのはただの気まぐれなのか、それとも口には出さないだけで実は惚れられているのだろうか。どちらにしろ承太郎の初めての相手は仗助ではない、この岸辺露伴だ。誇らしい気持ちで腰を更に押し進めたが、亀頭が埋まったあたりで何故かそれ以上は入らなくなった。

(おいおいおいおいおいおい、ぼくのスタンドはヘヴンズドアーだ、天国の扉だぞ!? なのにこの門、いや扉は開けられないっていうのかい? ぼくが下手なんじゃない、承太郎さんがきっと緊張して力を入れすぎているせいだ!)

ほぼ一瞬のうちにそんな考えが頭を駆け巡り、変な汗が額に浮かんだ。挿入するための準備は完璧だったはずだ、そもそも承太郎が望んだセックスなのに、何故ここまで頑なに侵入を拒まれるのか理解できない。
固まったまま動けずにいると、いつの間にか表情を緩めた承太郎が肩を揺らして笑いを堪えていた。一応こちらに気を遣っているのか、口を手で押さえながら顔を背けている。

「何で笑うんですか」
「先生のそんな顔は珍しいな、焦っているのか」
「ち、違う……承太郎さんが力を抜かないから」

承太郎の失礼な様子は未だに変わらず、とても続行できる雰囲気ではなくなってしまった。せっかく最強の男を快感で屈服させるチャンスを手にしたというのに。
露伴は腰を引いて承太郎に覆い被さると、口元を覆う邪魔な手を払いのけて強引に唇を重ねた。絡め合うものとは違う、積極的に舌を使って承太郎の口内を犯すような動きで攻める。

「ねえ、またチャンスをもらえませんか? それまでにしっかり準備してきますから」
「今回限りだと言ったら?」
「そんなの……絶対その気にさせるので無駄ですよ」
「宣戦布告か、面白いな」

後日ふたりきりになった時は確実にものにしなくては。年下だからと甘く見られては困る。
彼に似合いそうなきわどい玩具も用意して、今度こそ淫らな姿を拝ませてもらおう。




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2012/10/20