片耳で揺れる 小道の端に落ちていたイヤリングは、間違いなく露伴のものだった。 それを拾い上げると陽の光を受けてきらりと光る。持ち主が常に情熱の全てを注ぎ込んでいるものを象徴する、特徴的な形。 先日小道を訪れた時に落としてしまったらしい。だとすれば今頃困っているかもしれない。しかし自分には彼と連絡を取る手段を持っておらず、ここから離れる ことはできない。思い出した露伴が再び来るのを待つしかないのだ。もどかしさと悲しみを抱えながら15年間留まり続けている、この場所で。 足元に座りながら小さく鳴いている愛犬の存在に気付くと、鈴美は視線を合わせるためにしゃがみこむ。そして自分と1匹以外誰も居ない状況をいいことに、少しだけ思いきってみる。 イヤリングの金具部分を片耳に当てて、アーノルドに向かって微笑む。 「似合ってる?……なんてね」 そう言った直後に、背後から足音が聞こえてきてすぐそばで止まった。同時にアーノルドが顔を上げて1度だけ吠える。 感じたのは恐ろしいものではなく、ずっと昔から馴染んでいる懐かしい気配だった。 「もしかして本気で、自分に似合うと思っているのか?」 不機嫌そうな声に振り向くと、露伴が腕組みをしながらこちらを見ていた。片方の耳にはやはり、イヤリングはついていない。 このイヤリングが自分に似合うとは思っていなかった。ほんの出来心というか、あの場だけの冗談のつもりだった。 しかしそれは単なる言い訳にすぎず、あえて口には出さない。 大切にしているアクセサリーで遊ばれて、怒っているようにも見える。調子に乗ってしまった自分が悪いので、鈴美は覚悟を決めて立ち上がった。 「ごめんなさい露伴ちゃん、大切なものなのに」 手のひらにイヤリングを乗せて差し出すと、露伴は何も言わずにそれを受け取る。少しの間硬い表情でこちらを見ていたが、やがて深くため息をついた。 「まあ、おかしな奴に拾われるよりはずっとマシだ。君には大きな借りもあるしな」 露伴はイヤリングの金具を緩めると、鈴美の耳に手を伸ばしてそれを着けた。予想もしていなかった展開に驚いていると、露伴は急に鈴美から目を逸らす。 「今回だけだぞ、こんなことは他の誰にもしていないんだ」 「……本当に、良かったの?」 「何度も言わせるなよ」 耳元で小さな金属が揺れる感覚は、まさに生きていた頃に自分のイヤリングを着けた時のものと似ているようで、どこが違っている。 15年ぶりに再会した露伴は、いつの間にか大人の男になっていた。そんな彼に時々、絵を描くことが大好きな小さな男の子の姿が重なって見えるのは、あの頃の思い出が 今でも強く胸に残っているからだろうか。 |