熱帯夜 もう夜だというのになかなか気温が下がらない。窓をいくら開けても風はなく、この寝室に停滞し続ける蒸し暑さに耐えなければならない。クーラーを動かせば快適になるのは分かっているが、今の状況でそうするのは野暮な気がするのだ。ベッドを軋ませながら動く男の額から浮かんだ汗の滴が、露伴の胸にぽたりと落ちる。 広い背中に手を伸ばして触れるとそこは予想通りうっすらと汗ばんでいて、すぐ近くで聞こえる荒い呼吸と合わせればこの男と性交をしているのだと実感する。そんな露伴の余裕を奪うように、内壁を太い部分で擦られると我を忘れて声を上げてしまう。弱いところを把握されているのでそこをいじめられると逃げられない。 「……承太郎さん、すごい汗」 「あんたより動いているからな」 「まあ、そうですけど」 「今度は先生が上になってくれ」 「えー、どうしようかな?」 騎乗位は嫌いではないが、今はこのまま承太郎に攻められたままイキたい気分なので渋っていると、早くも痺れを切らしたらしい承太郎は露伴の身体を下半身が繋がった状態でベッドから起こす。そして座った承太郎と向き合う対面座位の体勢に変えられた。自らの身体の重みで承太郎の性器を奥まで誘い込む。 少し腰を揺らしただけで挿入前に使ったローションのせいか、ずぷっという音がやけに大きく耳に届いた。 「嫌いじゃねえんだろ、この体勢も」 「ん、あ……っ、すき」 雰囲気と快感にのまれて勃起した露伴の性器も、正直にぴくぴくと反応する。承太郎は先走りを浮かべる小さな割れ目に触れ、いやらしいぬめりを亀頭に塗り広げていった。そのねちっこい動きに息も声も震える。 「それ、だめ」 「イイの間違いだろう、あふれさせやがって」 承太郎の指に気を取られていた隙に下から強く突き上げられ、露伴は喘ぎながらだいぶ汗の引いた背中にしがみつく。中を拡げている性器はただでさえ太く大きいのに、獣のようにがつがつと犯されてしまったら数分ももたない。先ほどまでの承太郎の動きはまだ緩かったほうだ。 「重くないですか?」 「今更何言ってんだ」 「だって承太郎さん、そろそろ三十路でしょう? いく前に体力尽きるんじゃあないかと思って、若いぼくが心配してあげてるんですよ」 「年寄り扱いか」 そう呟いて眉根を寄せた承太郎は、露伴の腰を掴むと今度は1度だけでなく強烈な突き上げを何度も繰り返す。跳ね上がる露伴の尻と承太郎の硬い太腿がぶつかり合い、そのたびに奥深くまで貫かれるのがたまらない。抜き差しの勢いがつきすぎて時々、承太郎の性器が窄まりから抜けてしまいそうになる。 「そんなに、したら、抜け、て」 「ああ?」 腸壁を犯されながらの深いキスは気が狂うほど甘い。上下の穴を同時に承太郎に塞がれる悦びに、部屋の不快な蒸し暑さも、そしてこの男は自分のものではないという非情な現実も、今だけは全て忘れられる。余計な思考を振り払ってくれる激しい性交は、ゆっくりとは楽しめないが悪いことばかりではないと思った。 そっと指を差し入れた承太郎の髪は、汗で湿っていた。 やがて聞こえた低い呻きからわずかに遅れて、直腸の奥へと熱い塊が注がれる。どこにも結びつくことなく、後で掻き出されるだけの無意味な精子。妻も娘もいる承太郎にそんな愚かな行為をさせていることに後ろめたさどころか、ちらりと優越感が生まれた。 まだ達していない性器に触れた露伴の手を、その上から承太郎が握る。 「あっ……」 「いいぜ、このまま手伝ってやる。それとも恥ずかしいのか?」 「そんな、こと」 「じゃあいいだろう」 性交の最中に見せた荒々しさとは違う一面に、じわりと胸が熱くなった。どう頑張っても結ばれない相手に、会うたびに愛しさと寂しさが同じくらい積み重なる。 承太郎の厚い手が、露伴に合わせてゆっくりと動く。射精感が高まるにつれて、抜かれていない性器が露伴の中で再び硬さを取り戻していくのが分かった。 もう1度できるのかな、と淫らな期待が頭をよぎる。永遠には続かないこの関係がもたらす薄暗さも、今は全て快感に変わっていった。 |