永遠の夜 僕がみっともなく泣いても叫んでも、これが承太郎さんと過ごす最後の夜だった。 町に潜んでいた殺人鬼の件も片付いて、彼は予定通りアメリカに帰る。出発は明日。別にいきなり言われたわけじゃない、前から分かっていたことだ。 何度も足を運んだこの部屋も、明日には全て片付けられて誰のものでもなくなる。 今、ふたりで腰掛けているこのベッドも。もうここで承太郎さんに抱かれることはない。 照明の落とされた部屋の中で、大きな窓から差し込んでくる町の明かりだけを頼りに、僕は承太郎さんを見つめた。時には鋭く、時には優しくなるその目が好きだ。 一緒に過ごしているうちに、好きなところも嫌なところも少しずつ知っていった。僕も色々と無様な姿を晒してしまったけれど、この人になら構わないと思った。 承太郎さんは何も言わずに僕の左手をそっと持ち上げ、親指から順にくちづけをしていく。 何度も身体を重ねてきたものの、こんなことをされるのは初めてだ。 じれったさと、痺れるような甘さがじわじわと僕を支配する。舌を絡め合うものよりも、気持ちが乱されていく気がした。身体の隅々まで愛されているようで。 薬指の根元あたりに唇が押し当てられた瞬間、それまで目を伏せていた承太郎さんが顔を上げて僕を見た。 ただの偶然にしても、どうしてそれが左手の薬指なのか。いくら考えても分からないから、深みにはまらないうちに頭から疑問を消し去った。 また会いに来る、とか。お前のことは忘れない、とか。全て何の気休めにもならない。約束が果たされる保証なんてどこにある? そんな安い言葉を口に出すくらいなら、ずっとそばに居てほしい。 やがて時間が経てば、朝が訪れる。別れの時が来る。 それでもこの人を想い続ける限り、僕の中の夜が明けることはない。 永遠に心も身体も繋がっていたい。薄闇に包まれた部屋で、密かにそう願った。 |