保健室で逸脱/4





場の雰囲気に流されたとはいえ、とんでもないことになったと密かに思った。
然るべき場所へ引っ張られる前に保健室のドアに鍵をかけて不在を装い、一番奥にあるベッドを選んでカーテンを引いた。舌先を触れ合せている間にも白衣を脱がされ、露伴は生徒達から恐れられている校医からただの男になった。
帽子と学ランを脱ぎ捨てた承太郎にベッドに押し倒され、荒々しくくちづけられるとまるで獰猛な獣に貪られているようで興奮した。そんな妄想が浮かんできて、すでに息抜きどころでは済まない予感がする。
最近は色々なことがありすぎた。露伴を常に目の敵にしている風紀委員会顧問の教師が突然この保健室を訪れ、校内の施設を私物化しているだの服装の乱れがどうのと長時間ねちっこく責められ続け、さすがの自分もうんざりした。 校長のジョセフは、仕事さえ完璧にこなしていれば多少の好き勝手も見逃してくれているが、例の教師から見るとそういう考えは甘すぎる。いずれ生徒にも悪い影響を与えるという。
とにかくあの教師のせいでストレスが溜まっていた。気分転換に同性愛者が集まるバーに初めて足を運び、相手を探しているらしい数人の男に声をかけられたが結局その気になれずにひとりで店を出た。
勃起した承太郎の性器を見て身体が疼いた途端に、肝心なことに気付く。

「なあお前、ゴム持ってないのか」
「いいや、持ってねえ」
「……まあ、期待はしてなかったけどな」

女子にはモテているらしいが誰かと付き合ったという噂も聞かず、律儀に避妊具を持ち歩いているようにも思えなかった。しかもその大きさだと普通のサイズでは間に合わないだろう。

「悪い、こんなことになるとは思っていなかった」

露伴に覆い被さったまま真顔で訴えてくる承太郎が、どこか愛しくてたまらなかった。妊娠の心配はないとはいえ、男同士だからこそ直で繋がるのは危険なのだが、ここまできて中断する気にはなれない。

「気にしなくていい」
「先生?」
「空条と最後までしたいんだ、その気持ちは変わっていない」

承太郎の頬を両手で包みながら至近距離で囁く。不思議なもので、最初は承太郎を利用してストレスを解消する予定だったが、肌を重ねているうちに今では心から繋がりたいと思えてきた。

「もしかしてお前って、童貞か?」
「本気になれる女がいなかった。それだけだ」
「意外だなあ、本気じゃなくても抱ける奴だと思ってた」
「ひでえな」

目を細めた承太郎が身を起こし、露伴の下半身に手を伸ばす。女とは違い、挿入できる部分はひとつしかない。それでもやり方に少し迷いがあるらしい承太郎を導くために、露伴は指先に唾液を絡めて濡らし、見せつけるように窄まりに触れて解していく。
それを見ている承太郎の喉が動くのを見逃さなかった。じわりと痺れるように快感が波打ち、指を更に増やして弱い部分を探る。

「じょ、たろうっ……ここに、お前の」
「いつもそうやってんのか、ひとりで」
「後ろのほうは、いつもってわけじゃない」
「じゃあ今は、おれのためにやってるんだな」

執拗で熱っぽい問いかけと自慰のおかげで、このまま達してしまいそうだった。その一歩手前で指を引き抜くと、察したらしい承太郎が先走りで濡れた亀頭を解れた部分に押し当てる。震える息を吐き出しながら露伴は、まともに経験のなかった高校生を汚した。
もっと濃い刺激が欲しい。淡々と仕事をして家に帰る毎日だけでは味わえない何かを、無意識に求めていた。そこにちょうど現れたのが承太郎だった。この学校の生徒で、校長の孫。そんな彼と今ここで禁忌を犯している。
他の誰かに知れれば露伴は、もうこの学校にはいられなくなる。首が飛ぶかもしれない覚悟で味わう刺激は、想像以上のものだった。


***


薬局に立ち寄り、避妊具が置いてある棚の前で足を止める。そこで承太郎のサイズに合いそうなものを見つけた。国内最大、最長と書かれているこれならいけるはずだ。中で脈打つ瞬間もリアルに感じられそうな、薄型というのも惹かれる。
初体験の相手が男でしかも生での挿入。あまりにもインパクトがありすぎて、もし今後承太郎に彼女が出来ても普通のセックスが物足りなくなるかもしれない。
精液を腸に流し込まれるあの感覚を急に思い出し、露伴は身震いした。あれをもっと味わいたい。いつか現れる他の女に奪われたくなかった。
露伴は乾いた唇を舐めて湿らせると、手にしていた避妊具を再び棚に戻して店を出た。




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2012/8/12