自信あったのにな 「奥さんおいくつでしたっけ? 多分、承太郎さんとあまり変わらないですよね……まだ充分いける年頃ですし、あなたがアメリカ離れてる間に他の男に抱かれていてもおかしくないですよ。そう思いません?」 頬に大きな衝撃を受けたぼくの身体が揺れて絨毯に倒れる。 ぼくを見下ろす承太郎さんの目は恐ろしく冷ややかで、スタンドを使って殴られなかったことだけは幸運だと思った。そうなれば口の中を切るだけではなく、顔の骨が砕けるだろう。 「顔も見たくねえ、帰れ」 「嫌です」 血の味が広がる唇を開いて出てきた一言に、承太郎さんは眉をひそめた。 約束もなく強引に押しかけたこの部屋で、適当にテーブルの上をあさっていると彼の奥さんと娘さんの写真が出てきた。 向こうでは良い父親として振る舞っているのだろうか。それほど口数の多くない承太郎さんの家族サービス、それを想像するだけで胸の内が激しく乱れた。これは嫉妬かもしれない。 もちろん同性に対しておかしな感情を抱くわけがないのに、少し頑張ればイケるかもしれないなんて妙な期待をした。そんな根拠のない自信がぼくを暴走させた。 「あんた、自分が何を言ったか分かってねえのか」 「結婚してようがしてまいが、男女の間に絶対なんて有り得ないんですよ」 殴りたいならそうすればいい、こうなったらスタンドでも何でも使ってぼくの身体の深いところに届く強さで傷付けてほしい。 なかなかこっちを向いてくれない承太郎さんの心に爪痕を残せるのなら本望だ。 人間が受ける印象は、良いものより悪いもののほうが根深く残る。強烈に恨まれて憎まれて、この男にぼくの存在を刻みたい。 |