嫌われるモノローグ 指を絡ませて歩きたい、唇を触れ合せるだけのじれったいキスをしてみたい。これは無謀な願いだろうか。毎回ではなくても、短い時間でもいい。そういうのも、たまには。 薄暗い部屋の中、ごつい薬指から指輪を抜き取りかけたところで我に返った。 それをこっそり盗んで隠したとしても、まずは自分が疑われるだけで何の得にもならない。この男が海の向こうにいる女のものだという事実は全く揺らぐこともないのだから。 既婚者だから好きになったのではなく、好きになった相手が既婚者だった。今まで周りにいなかったタイプで、興味だけで近づいた結果こんな関係になってしまった。 奥さんと別れてほしいだなんて絶対に言えないし、言うつもりもない。あなたが好きだと告げるだけで精一杯だ。永遠の愛を誓える関係ではないと分かっていても。 眠っていたはずの承太郎が目を覚まし、露伴の手首を掴んだ。 「……痛っ」 少し前までビニールのひもできつく縛られていた手首には、今でも赤く染まった跡がくっきりと残っている。 「痛いほうが興奮すると言ったのは、あんただぜ」 「まあ、そう……でしたね」 更にそこを強く握られて、露伴は眉を寄せてひたすら痛みに耐える。次は首を締めながら挿れてみるか、と囁かれて身震いした。こんなはずでは、と後悔しても遅すぎる。 道徳に反したこんな関係でも、本当は身体を寄せ合って互いの温もりを確かめ合うような甘い行為を夢見ていた。しかし露伴の告白に対する承太郎の答えで、全てが崩れた。 『あんたは相当変わり者だと聞いている。おれのことが好きなら、色々試させてくれないか』 色々とは何だ。漫画のためなら危険な行為でも自ら首を突っ込んできたのだから、多少のことでは動じない自信があった。その翌日、尖らせた鉛筆の芯を尿道に突っ込まれた時点でやばいと感じ、次にどうやって手に入れたのか細身のアナルバイブを1度に2本も挿入されて気が狂いそうになった。ローションの助けは借りたものの穴が裂けそうな痛みと恐怖、そして承太郎にこの姿を観察されているという状況にたまらなくなり、彼自身に犯されている妄想をしながら、みっともない声を上げて射精した。 今はもう、普通にセックスがしたいとは言えなくなった。束の間の恋人気分を味わいたいという夢は、この先叶いそうもない。もし本心を告げてしまえば、承太郎は露伴への興味を失うだろう。求められているのは妻相手では試せない、アブノーマルな行為の実験台としての需要なのだから。 いつの間にか勃起していた承太郎の性器が、ベッドに仰向けに倒された露伴の中に潜り込む。いつも通りコンドームを着けない生の欲望がずぶずぶと奥へとめり込んでいく感覚と共に、首へと伸ばされた両手に呼吸を塞がれる。 薄壁の向こうにある死と限りなく隣合わせの状態でも露伴は、腸壁を拡げて擦り上げられる快感に縋り続ける。 スタンドでも素手でも戦い慣れている承太郎は、力の加減を上手くコントロールできているのかもしれない。しかしその手元が狂って、絞め殺されるのも悪くないと思った。そうすれば一生手に入らないはずの承太郎の心に、自分の存在を深く刻み込める。 喉を潰す指にもっと力が入ることを、露伴は密かに望んだ。甘い夢はもう見ない。 |