once again 『同じことを100回聞かれても笑顔でお答えします!』という信じられない煽り文句が書かれた、パソコン教室の看板を外で見かけたぼくはうんざりした。 いくら商売とはいえそんなに同じことを聞かれ続けて、しかも笑顔で接するなんてどこの菩薩だよ。是非お目にかかってみたい。かと言ってこのパソコン教室に入るつもりはないけど。 ぼくなんて同じことを2回聞かれただけでイライラするけど……周囲の音がうるさい場所にいるならともかく、人の話は1度で理解するのが聞く側のマナーってもんじゃないのか。 「なあ先生、腹が減ったんだが」 隣を歩く承太郎さんが思い出したかのような何気ない口調で呟く。 ぼく達は水族館の帰りで、近くに良い感じのレストランがなかったので結局バスに乗って自分の住む町に戻ってきた。こっちなら何かと美味いものが食べられる店がある、トニオのところにでも行ってみるか。 「そうですね、それならあの……」 「ああ、そうだ。先生の家に行くのがいいな」 「え? 何ですって?」 「同じことを何度も言わせるな、あんたの作る飯を食わせてくれ」 どうせその後ぼくを食うつもりだろう、エロ漫画みたいに! それはともかく、彼はぼく達が踏み込んでしまった誤った関係についてはもう開き直ってしまっているのか、どちらかの部屋でふたりきりになることに対してためらいを感じさせない。 これからぼくの家で夕飯(しかも当然のようにこのぼくに作らせるのかよ!)を済ませた後のことはこちらの勝手な想像だけど、今までの流れからして絶対に汗まみれでベッドに転がる展開になるに決まってる。 「それとも、迷惑だったか?」 「別に、いいですけど」 「この前あんたが作ってくれた、ビーフシチューの味が忘れられねえんだ」 「そんな調子じゃ、今度向こうに帰ったら大変ですね。奥さんの味が待ってるのに」 「あいつとあんたは別だろう」 ちょっと最低な響きに思えたのは気のせいか? あんたのとってのぼくは別腹って意味かよ、いいご身分だな。 「……忘れられねえのは、料理の味だけじゃねえけどな」 「急に、何言ってんですか」 「迷惑か?」 「だから違うって何度もさっきから!」 腕を掴まれ、建物の陰に突然連れ込まれて唇を奪われた瞬間、ぼくの世界は彼の色に塗り替えられる。 何かと罪作りなこの人の問いかけは、容赦なくぼくのペースを崩す。笑顔で答えられる余裕は日増しに失われてしまう。 ぼくは自分が思っている以上に、流されやすい人間なのかもしれない。 |