platinum 「承太郎さん、スタンド出してください」 たどり着いたホテルの部屋に踏み込んだ僕は、パソコンの前に座っている部屋の主にそう言った。 さすがに唐突すぎたのか、こちらを向いた承太郎さんは眉をひそめている。 「何だ、急に」 「いいから、早くしないと下がっちゃうので」 更に続けると、彼の眉間の皺はますます深くなる。近くに敵が居るわけでもないのに、何で出さなきゃいけないんだと言いたげな表情だ。もちろん僕が承太郎さんを相手に スタンドで戦うつもりもない。そもそも、そんなことをする理由が思い当たらない。 僕が本気だと分かったのか、承太郎さんは深く息をつくと椅子から立ち上がった。その傍らに、彼のスタンドであるスタープラチナが姿を現した。僕はスケッチブックと鉛筆を取り出し、 絨毯の上に腰を下ろす。よし、準備完了。 「すみませんね、助かります。もうちょっと彼の目線をそちらに向けて、身体の角度も……」 自分の中の理想を現実にするために、僕は色々とリクエストをする。有り難いことに承太郎さんもしっかり協力してくれているし、これなら良いものが出来上がりそうだ。 スケッチブックに鉛筆を走らせる。自分でも恐ろしいくらいスムーズに、描いた線が繋がって絵になっていく。 「さっきの話だが、何が下がりそうだったんだ」 「ああ、あれですか。テンションのことですよ」 すぐ隣に座って問いかけてきた承太郎さんに、僕は目線をスタープラチナに向けたまま答える。やはりこのスタンドは他のとはオーラが違う。素晴らしいモデルだ。 「朝起きたら何だか、スタープラチナを描きたくなってしまって。やっぱり自分のそういう情熱って大切にしたいんですよ。スケッチしたいと思ったら、朝でも夜でも車を 飛ばしてそこに行って、満たされるまで描き続ける」 「俺の都合は考えてなかったみたいだな」 「いや、あなたなら付き合ってくれる気がして」 ちらりと盗み見た承太郎さんは、心底呆れたような表情をして僕を見ていた。そんな目を向けられるのはもう慣れている。 僕の手は止まらず、新しいページをめくる。今度は僕のほうからスタープラチナに近付いて、違う角度から描いていく。どこから見ても完璧だ。 このスタンドは、まさしく承太郎さん自身でもあるわけだ。改めてそう考えると、それまでは単に絵のモデルだったスタープラチナを冷静な気持ちで見られなくなる。 「手が止まっているぞ、考え中か」 「えっ、ちょっ……そんなところまで見てるんですか!」 「描き終わるのを待っているだけだ」 いつの間にかソファに腰掛けていた承太郎さんがの視線を、痛いほど感じる。少し緊張しながら再び鉛筆を動かす。 それから何枚か描いた後、僕はスケッチブックを閉じた。 「満足したか?」 「たくさん描けて楽しかったです、ありがとうございました。あ、でも今日は急に押しかけてしまったので、何かお礼させてください」 何がいいですかと言いかけた時、離れていた場所から目の前に移動してきたスタープラチナの手が、僕の頬に触れた。承太郎さんよりも大きな、温度を感じない手だった。 戸惑う僕と、スタープラチナの唇が重なる。あまりにも突然のことだったので、一瞬何が起こったのか分からなかった。 「確かにいただいたぜ、モデル料」 承太郎さんは目を細め、自分の唇に人差し指の先を当てた。 |