仕組まれたものでも構わない





招かれた露伴の家で観ることになったのは、古い洋画だった。
かなり昔のスプラッター映画で、今では有名な役者が皆揃って若い。画質の粗さや薄暗い色彩が、観ている者の恐怖心を煽る。
字幕がなくても台詞は理解できるが、逆にできないのは一緒に観ている露伴のほうだ。
途中までは承太郎の隣で大人しく映画を観ていたが、中盤を過ぎた頃から様子がおかしくなった。かろうじて人の形を留めている化物が金髪の女に襲いかかると、露伴は穿いているジーンズの前を開いて下着から性器を掴み出した。
いつの間にか勃ち上がっていた性器は、露伴の手の中で先走りを浮かべている。驚きのあまり、視線はそこに釘付けになってしまう。画面の向こうで悲鳴と血飛沫が上がり、その様子を眺めながら露伴は息を荒げて性器を扱く。時々漏らす喘ぎが悩ましい。 やがて肉を食い千切られた女の無残な死体が映る。普通なら目を背けたくなる映像だが、露伴は絶頂を迎えたのかびくびくと身体を震わせて射精した。
変わり者なのは知っていたが、まさかこんな性癖があるとは思わなかった。承太郎の目も気にせずに痴態を晒した露伴は、恥ずかしがるどころか唇の端を上げて笑みを浮かべた。

「この映画、何度観てもイケるんです。女が腹を裂かれるところなんて、最高でしょう?」

どう考えても異常な感想に、承太郎は何も言葉が出てこなかった。確かにスタンド使い達との戦いの中で、人の死体は数えきれないほど見てきた。しかしそれに対して性的に興奮した経験はない。
この映画も同じで、作り物とはいえ自慰のネタにする気は全く起こらなかった。
露伴は気だるげに息をつくと、服を乱したまま承太郎に迫ってきた。ソファに押し倒され、股間をそっと撫でられる。

「……っ」
「ほら、承太郎さんも硬くなってる。もしかしてぼくの気持ち、分かってくれました?」

映画の内容ではなく、大胆に自慰をしていた露伴に煽られていたのだが口には出せなかった。ろくに抵抗できないままベルトを外され、反り返った性器に露伴が舌を絡めてくる。
まだ続いている映画のほうは展開が一転し、主人公側の反撃が始まった。虐殺を続けてきた化物達が火の海に包まれる光景は最大のクライマックスのはずが、露伴は全く興味がないと言わんばかりに承太郎の性器を吸い、根元の膨らみまで舐めつくす。

「映画の続き、気になりますか」
「邪魔しているのは、あんただろうが」
「気持ち良くなれる場面は終わったので、ぼくはもう興味ないです……それより、今は」

あまりにも自分勝手な言葉を並べると、身を起こした露伴がジーンズと下着を脱ぎ捨てた。そして唾液を乗せた指で自らの後ろを慣らしながら、再び承太郎の股間に顔を埋める。
露伴は主人公側が化物を倒す場面よりも、化物が主人公側を襲う場面に性的な興奮を覚えるようだった。そんな歪んだ部分を見せつけられても、更に過激になった露伴の痴態や口淫で昂った劣情を抑えられない。

「熱くて美味しいですよ、ここ……ぼくの好きな匂いだ」
「……先生、っ」
「名前で呼んでください、それからぼくを襲ってほしい。準備できてるから」

快感に浸かりきったとろりとした目で訴えられ、理性が完全に弾ける。露伴を組み敷くと開かれている足をそれぞれ両肩に乗せ、指で解された窄まりに性器を押し付けた。すぐには挿入せず、周囲をくすぐるように亀頭を動かす。

「くっ、はやく……!」

焦らしが効いたのか、泣き出しそうな声でねだる露伴に思わず喉を鳴らして息を飲む。しかしそろそろ限界なので、承太郎はゆっくりと腰を進めて挿入を始めた。

「ん、はあっ……!」
「感じてやがるな」
「だって、じょうたろ、さんが……っ、すごいから」
「まだ半分も入ってないぜ」

忙しなく息継ぎをしながら、露伴は小さく頷いた。多分最初からこうして誘うつもりで、承太郎をこの家に招いたのだ。そうでなければ、淫らな気分になれるというスプラッター映画まで用意しているわけがない。
縋るように伸ばされた両手に一瞬だけ心が揺れたが、あえて無視をして性器を根元まで収めた。

「本当は、分かってるんです……こんなの、だめだって。でも」
「さっきまでの勢いはどうした、強気だったじゃねえか」

何度か抜き差しすると、露伴は喉を反らして喘ぐ。締め付けがきつくなり、脳の奥まで快感がじわりと押し寄せてきた。家族に対する罪悪感を振り切るように深く突き、まだ少年の匂いが残る肉付きの薄い身体を貪った。


***


画面の中で、男が臓物を掴み出されているのを見た露伴の腰の動きが激しくなった。寝室にも置いてある大型のテレビはグロテスクな映像を色鮮やかに映し、雰囲気を盛り上げる。
スプラッター映画を観ながらのセックスに味を占め、今日は露伴のほうが積極的に動ける騎乗位で禁忌を犯す。

「急に押しかけて、悪かったな」
「っ、大丈夫です……原稿、全部終わってるから」
「終わってなくてもやりたかったんだろう、露伴は」
「ん、そうかもしれない……」
「そろそろ出すぞ」

細い腰を掴み、短い間隔で数回突き上げると承太郎は露伴の直腸に精を吐き出した。
ベッドが軋む音よりも大きく響く不気味な音楽と、頭を割られた人間の断末魔の叫び。露伴はそれが心地良いのか、射精後の萎えた承太郎の性器を咥え込んだまま自慰を始める。
露伴の異常な性癖に最初は驚いたが、今ではすっかり慣れて平気で付き合えるようになった。映画の残酷描写が激しいほど淫らになる露伴は、たまに承太郎の立場を気にかけるような様子を見せるが、軽く肌に触れてやると表情が緩む。
全て承太郎を煽る罠かもしれないが、それでも構わないと思う自分も狂っている。




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2012/6/3