SとMの境界線 昼間だからと言って遠慮するような初々しい関係でもない。すでに何度訪れたか分からないホテルの部屋、ベッドの上で裸の胸に唇を押し当ててくる承太郎の頭を抱き寄せる。 露伴は濡れた舌の感覚に震えながら、少し癖のある黒髪に指を埋めるとそっと頭を撫でた。顔を上げた承太郎と目が合う。 「……すみません、嫌ですか。こういうの」 「おふくろやじじい以外には、されたことねえから驚いた」 淡々と語る承太郎は、特に不愉快そうな様子は見せていない。意外だった。絶対に睨んでくると思っていたからだ。 「前にどこかで聞いたんですけど、頭を撫でられて嫌がる男はSで、嫌がらないとMだって」 初めて聞いた時は、くだらない話だと思った。頭を撫でたくらいで性癖が分かるものかと。 人間そこまで単純じゃない、そう思いながらも今ここで試してみたのは、承太郎がどういう反応をするか何となく気になったからだ。 嫌がらなかったということは、見かけのイメージにに反して実はMなんだろうか。 「あんたから見ると、俺はどっちに見えるんだ」 「最初はSっぽいかなと思ったんですけど、さっきのことを抜きにしても、完全にはそっちのほうではないかもしれないなって」 露伴はそう言い、身体の位置を逆転させて承太郎の背中をシーツに押し付ける。そして彼に覆い被さり、薄く笑った。 「主導権、たまには僕が握らせてもらいますよ」 硬く勃ち上がっている承太郎の性器に手を添えると、露伴はそこに浅く腰を落とす。亀頭が全部入るか入らないかというところまで。 正直もどかしい気分だったが、眉をひそめて息を荒げる承太郎を見ると優越感に浸れる。とても新鮮だった。 「このまま欲しいなら、僕にお願いしてください。ちゃんと言えたら、ご褒美あげますから」 余裕の表情を作って要求する露伴だが、無理に腰を浮かせているせいでかなり危うい状態だった。 亀頭に触れている尻の窄まりは、全てを飲みこみたくて疼いていた。しかし流されてしまっては面白くない。 「気持ち良く、なりたいですよね?」 気が済むまで遊ぶつもりだったが、急に腰を掴まれて身体が竦んだ。 「お願いするのは、あんただろ」 腰を強引に根元まで落とされて、声を上げながら露伴は背を反らす。自身の性器から先走りがこぼれ落ちた。 数秒で、余裕も主導権も一気に奪われた。承太郎はそれから全く動かず、揺らしかけた腰は掴まれたままで自由にならない。奥まで貫かれてじらされる。 慣れた感覚なのに、いつもとは違いここから先に進まない。 「欲しくねえのか、ご褒美」 低い声で煽られて、露伴は熱い息を吐いた。 「動いて、ください……」 目を伏せて控えめにねだると、何度も強く突き上げられて短く喘いだ。我を忘れて乱れる露伴の様子を、承太郎は楽しそうに眺めている。 やはりあんな話、あてにならない。ただの迷信だ。承太郎の腹に精液を散らしながら、露伴は求めていた激しい快感に溺れた。 |