シュガーレイン 急に降ってきやがった、と玄関先で呟く承太郎は全身ずぶ濡れだった。 帽子の下にも雨水がしみ込んでいるようで、髪からは滴が流れ落ちている。 今日の降水確率は何パーセントだったかは見ていないが、朝から空は曇り気味だったので降る予感がして外出をやめた。ずっと家に居たおかげで承太郎からの電話に出られた ことを考えると、露伴にとっては恵みの雨だったというわけだ。 「そのままじゃ風邪引いてしまうので、とりあえず脱いでください」 そうは言ったものの、その辺の男よりも遥かに体格の良い承太郎が着られそうな服は持っていない。明らかに露伴とはサイズが違いすぎる。しかし何も着させないわけには いかず、洗濯したばかりのバスローブを貸すことにした。丈は短いかもしれないが、どうせ外に出るわけではないので我慢してもらう。 下着以外の服を全て脱いだ承太郎は、露伴が手渡したバスローブを羽織ってソファに腰掛けた。彼のバスローブ姿は見慣れないせいか、妙にどきどきしてしまう。 露伴は持ってきたタオルを手にして承太郎の前に立つと、濡れた髪にタオルを被せて大雑把に拭き始めた。突然タオルの上から髪をくしゃくしゃにされた承太郎は、不満そう にこちらを見ている。 「風呂上りの犬みてえだな」 「じゃあ僕はその飼い主ですね、噛まれないように気をつけないと」 人の髪を拭いてやるのは初めてだ。しかもこうして、年上の男の世話を焼くというのは新鮮で面白い。 水気が大体吸いこめた頃にタオルを離すと、顔を上げた承太郎が笑みを浮かべていた。何かを企んでいるような、胸騒ぎがするような種類の。 「襲われないように、の間違いじゃねえのか」 急に腕を引っ張られて、ソファに倒れ込んでしまう。驚いているうちに承太郎がすぐに覆い被さってくる。掴まれた手首、バスローブの隙間から見える逞しい胸。こうなって しまえば身体が疼いて、言うことを聞かない。 引っ張られた時に手から離れたタオルは、絨毯に落ちて広がっている。 「もしかして、怒ってます?」 「何の話だ」 「冗談でも、僕に犬扱いされたことですよ」 「悪い犬を躾けるのは、飼い主の仕事だろう。最後まで面倒を見てくれ」 大きな手が服の裾から入ってきて、直接肌に触れてくる。胸の敏感な部分をわざと避けながら動く手がじれったくて、身体をよじってしまう。これでは欲しがっているのが見え見えだ。 どちらが躾けられているか分からない。主導権は完全に奪われているのだから。 愛撫を受けながら視線をずらした先では、雨粒が延々と窓を叩いている。降り方が強くなってきているようだ。 「ここで、するんですか」 「あんたが嫌なら、寝室に行くか」 「やっぱり、このままでいいです。離れたくない」 「……ああ、俺もだ」 そう囁かれた瞬間、胸が締め付けられる。思わせぶりな言葉のせいで、決して自分のものにはならないこの男に対して、ますます本気になってしまう。 首筋や胸、そして腹に承太郎の唇が次々に押し当てられて、そのたびに露伴は熱い息を吐いた。無意識に腰が揺れる。 それはまるで雨のようだと思った。身体を冷やすものではなく、唇が触れたところから甘くて淫らな熱が生み出されていく。この肌の上にずっと降り続けてほしい気持ちと、 身体の奥まで気が狂うほど犯されたいという欲望が、露伴の中で複雑に渦巻いていた。 |