白と黒 黒のネクタイと同じ色のスーツ、白いシャツという見慣れない格好をした露伴が駅前を歩いていた。いつものヘアバンドはしていない。 声をかけてみると、知り合いの通夜に向かうところだったらしい。 「行こうとしていたんですけど、やめました」 「いいのか」 「ああいう雰囲気って苦手で。あ、どうでもいい相手ってわけじゃないんです。事実を受け入れたくないって気持ちも少し……ある」 露伴にこんなことを言わせる知り合いとは、一体どういう人物だったのか。男か女かすらも分からないが、もうこの世にいない相手に対して嫉妬を覚えた。 再び歩きだした露伴のそばを、自分も同じペースで歩く。 そして高慢でやりたい放題な露伴が、遺影に手を合わせて香をつまむ様子を想像してみると、普段の彼とのギャップに胸が熱くなった。 「どうしたんですか、ずっと黙ったままで」 「俺にも、分からん」 「変な人ですね、前からだけど」 あんたにだけは言われたくねえ、と思ったが身のために黙っておく。 「それじゃ僕は、これで」 しばらく歩いた後、そっけなく挨拶をして露伴がこちらに背を向けた。黒いスーツに包まれた腕を掴もうとした手はタイミングを外して、空気をかすめる。 引き止めてどうするつもりだ。 喪服の露伴に欲情してしまった事実は、色々な感情と共に胸の奥底に沈めて封じた。 |