白と黒





黒のネクタイと同じ色のスーツ、白いシャツという見慣れない格好をした露伴が駅前を歩いていた。いつものヘアバンドはしていない。
声をかけてみると、知り合いの通夜に向かうところだったらしい。

「行こうとしていたんですけど、やめました」
「いいのか」
「ああいう雰囲気って苦手で。あ、どうでもいい相手ってわけじゃないんです。事実を受け入れたくないって気持ちも少し……ある」

露伴にこんなことを言わせる知り合いとは、一体どういう人物だったのか。男か女かすらも分からないが、もうこの世にいない相手に対して嫉妬を覚えた。
再び歩きだした露伴のそばを、自分も同じペースで歩く。 そして高慢でやりたい放題な露伴が、遺影に手を合わせて香をつまむ様子を想像してみると、普段の彼とのギャップに胸が熱くなった。

「どうしたんですか、ずっと黙ったままで」
「俺にも、分からん」
「変な人ですね、前からだけど」

あんたにだけは言われたくねえ、と思ったが身のために黙っておく。

「それじゃ僕は、これで」

しばらく歩いた後、そっけなく挨拶をして露伴がこちらに背を向けた。黒いスーツに包まれた腕を掴もうとした手はタイミングを外して、空気をかすめる。 引き止めてどうするつもりだ。
喪服の露伴に欲情してしまった事実は、色々な感情と共に胸の奥底に沈めて封じた。




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2011/7/7