※ハシノさんは、「夜のソファ」で登場人物が「始める」、「永遠」という単語を使ったお話を考えて下さい。
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夜のソファ






 自分はよほど思い詰めた顔をしていたのか、少し前に部屋を出て行った仗助は呆然とした表情でこちらを見ていた。
「ご迷惑でしたか」
「……いいや、驚いただけだ」
 ソファに座ったままの露伴が俯いていると、承太郎がすぐ隣に腰掛けて軋んだ音が立つ。すっかり外が暗くなった静かな部屋で、縮まった距離をどうしても意識してしまう。
 常に頭の中を占めていた迷いに決着をつけるにはちょうど良い機会だった。永遠に封じていたほうが波風立たずに済んだかもしれないが、そろそろ限界が来た。
 昼間にこの承太郎の部屋を訪れた時、すでに授業を終えていたらしい仗助が先に来ていた。改めて出直す選択肢もあったが、仗助に負けた気がして不愉快だったのでここまで居座りながら2人きりになれるのを待っていたのだ。
「あいつの前では言えない話か」
「だから先に帰らせました、聞かれるわけにはいかない」
 顔を上げて承太郎と目を合わせると、それだけで動揺する。思っていたよりもずっと近くで向き合ってしまい、伝えるために組み立てていた言葉がばらばらに崩れそうになった。
「好きなんです、あなたのこと」
 左手薬指が示すとおり、妻も娘もいる承太郎にこの告白を受け入れてもらえる可能性は限りなく低く、ゼロにも等しい。返事を聞く前から結果は見えていた。
 いっそのこと嫌な顔をしてすぐに拒絶してくれればいいのに、承太郎は何故か黙ったままで余計に辛い。ようやく彼が口を開いたと同時に、露伴は更に付け加えた。
「我慢するつもりだったけど無理でした。あの、駄目だってもう分かっているので……だから、振ってください。ぼくを」
 変な逃げ道を作ったのが良くなかったらしく、承太郎は急に眉間に皺を寄せて露伴を睨む。
「最初から期待していません、みてえな態度が気に食わねえ。悪いが、あんたの自己満足に付き合ってやる義理はない」
「確かに、そうですね……」
 いつの間にか渇いていた唇も震えた声もどうにもならず、せめて心臓だけでも落ちつけたくてそこに手をやると、未だにうるさく鳴り続けているのが分かる。すみません、と呟いて何とかソファから立ち上がり、上着を掴んだ。
 もうここには来られない。振り向きもせずに部屋を出て、それでおしまいだ。
 手首を掴まれ、強く引かれた直後には承太郎の腕の中にいた。全てが終わったと思っていたので、突然始まった予想外な展開がうまく飲み込めない。
「落ち着いたのか、ここは」
 心臓の位置に承太郎の厚い手のひらが触れた。囁くような低い声も重なり、落ち着くどころか逆効果だ。本当は振られたかったわけじゃないと、この瞬間に気付いてしまった。




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2013/4/26