ルームサービス/後編





「うぅ"…ッ、ンッ!ん、もうね、限界近いんだけど。」

苦しそうな息を霧散させると、チュパッ、滑稽なほど卑猥な音を立てて紅い口元が見せ付けるように解放する。
男の熱棒を口一杯咥え込んでいた柘榴色の肉は滑った先走りの汁で鈍く輝いていた。濡れた唇は喜悦に満たされて口角を上げている。
口の中では無く、熱く蕩けた肉襞の中に孕み種をぶちまけて、匂いを擦りつけてやりたい…。
淫奔な露伴の様子にジョセフの表情もすっかり雄のそれと変化していた。
普段の人好きする色は影を潜め、苛烈な欲を灯すエメラルドグリーンの瞳の美しい輝きに紅き唇は感嘆の溜め息を漏らした。

「…焦らされた貴方はとてもセクシーだ、もう少し見ていたい。」

「ダ〜メ!俺もう限界。それに悪戯っ子にはそろそろお仕置きしてあげないといけないでしょ?」

”未だもう少し、“とおねだりする恋人に蕩ける様な笑みを送りつつも、ジョセフはこれ以上の卑猥な悪戯を却下し、本格的にこの淫らな白い肢体を掻き抱いた。
状況の変化を空気から読んだのだろう、雄っぽい表情を見せていた端正な顔は淫らな笑みを、やや戸惑い気味な濡れた表情へと変化して行く。
散々焦らされたのだから、期待通りとことん泣かせてあげよう…。
攻める側から攻められる側へとなった露伴の表情を楽しみ、ジョセフは自身の股へ顔を埋めていた彼の体を起させ、性器の上で膝を付かせた。
それを支える為に白い太腿を両手で包みながら、ゆるゆると臀部の方まで登って行くと、丁度割れ目が指に当たる箇所で滑りを帯びた感触が当たった。
そのネチネチとした粘液が何処が濡れて流れ出たのか知っているジョセフは、相手の淫猥さを咎める様に指先に付いた粘液を見せ付ける。

「何、コレ?」

未だ触ってもいないのに既に股が濡れていた。
クス…と形良い唇が淫蕩に笑うと、瞬間、性的な高揚ばかりでない火照りが白く滑らかな肌を襲った。
今まで好色な淫獣の振る舞いをしていた蟲惑の表情はサッと朱に染まり、ギラギラと此方を直視していた黒紫の瞳も潤みながら伏せられてしまっている。捕食さながらに口淫を楽しんだ淫靡な紅い唇は滑りを帯びたまま小さく噛まれていた。
先程までの様な淫行を喜々として仕舞える癖、自身の淫らさを見せ付けられると露伴は途端に羞恥色に染まる。
彼はセックスの経験も興味の強さもあるが、被虐的な快楽には余り抵抗が無かった。今まで手玉に取られた事が余り無いのだろう、虐められるとこんなにも感じて艶めいた表情になるのに、だ。
そのギャップがジョセフに加虐的な官能を生ませる。
男は彼に見せ付けていた指をもう一度その白い太腿に添え直し、馬乗りで身体に跨ったままの挿入を促した。
自らはしたなく呑みこんで見せてよと。
刹那、ヒクリと身震いした白い肢体だったが、男の手に誘導されるまま、熱く滾った肉棒を淫らに濡れた媚肉の口にぴとりと添わせた。偶に此方を窺い見る目は恥ずかしそうに伏し目気味な癖に欲で濡れていた。
ットプ…、先端を押し入れる。

「アグッ!…ぅ、クゥ、ンッ!」

細い眉の間に軽く皺が寄った。
そんな表情が匂い立つような色香を帯びている。
重力に従ってズブズブと熱棒が腹の中へ埋め込まれる感触に、鋭く、しかし甘やかな声を上げて白い肢体は弓なりに仰け反った。

「あぁっあ、ぃあ…、」

分泌液で潤んだ肉襞は誂えたかのように易々と陰茎を咥え込み、絡み付いて内側に向きを変える。
受け入れている露伴の表情は痛みよりも悦楽に染まり上がっていた。
丸みを帯びた白い肉をグッと掴み、中のいやらしい石榴色の襞を広げる様に尻を割って、ジュプッ…分泌液を潤滑液に棒を奥へと突き立てた。
”ひぅ…ッ!”声にならない悲鳴が白く細い喉元で震える。
淫らでエッチな体だ。相手の様子にずくりと欲を駆り立てられたが、ジョセフは敢えて先程の様に雄々しく突き上げる事はしなかった。
蕩け始めた入口を少しずつ押し広げる様に優しくねっとりと腰で円を描く。

「アッ、アッ…ふぁぁっ!」

強く突き上げられると思っていたのだろう、予想とは違う物足りない位の動きに露伴は頭を振って鳴いた。
充血した腫れぼったい肉襞にジョセフの柔らかな挿入は寧ろ辛い。感じる程の刺激の癖、疼きを忘れさせてはくれないのだ。
優しい愛撫で焦らされ、身体に力が入らなくなるのに反して内部の肉は細かく痙攣している。
弱い部分を擦られていては逆らう事など出来はしない。
散々焦らした罰を与える様にジョセフは意地悪く疼きばかりが増す浅い挿入を繰り返す。
堪らない刺激だった。爛熟した身体はより雄々しい愛撫を求めて、男を締め付けた。
グチュ…と生々しい音を立てながら白い肢体が懇願し、遂に紅い唇からも哀願の色が零れ落ちる。

「…あぁ、っセフ、ジョセフ…ッ、んっぁ…!」

男の背中を柔らかく掻きながら、彼は名前を絶え絶えに呟き続けた。
赤裸々な言葉を紡ぐには自尊心も抵抗も強過ぎる露伴は、この先を求める言葉を露骨に言う事など出来ず、渇望する相手の名前を控え目な位に呼び続けるしかなかったのだ。
相手を悦楽の坩堝に誘う手管と妖艶な色香を持つ傍らで、乞う事に慣れず拙いお願いが精一杯の恋人にジョセフは熱っぽく吐息を零した。
その、どうにも妖しい不均衡さを何時までも守ってやりたい様な、いっそ咽び泣くまで壊して仕舞いたい様な、不思議な気分にさせられる。

「露伴…可愛いよ、ホントに。」

獣染みた衝動に鎖を繋ぎ、ジョセフは愛おしそうに笑みを零した。
そして白い肢体が望む様に腰を持ち上げ、内分泌液の染みた媚襞を硬く逞しい性器が一気に貫く。
痛みは無いが強引な最奥への挿入に、”ッ!!”露伴は声にならない嬌声を上げた。腰を強く押し付けられ、白い喉は大きく引き攣った。
ひたひたに潤ったいやらしい襞がジョセフの熱棒にぴっちりとしがみ付いて離さず、先端部からトロリと溢れ出す汁を美味そうに啜る。
根元まで突き入れて奥のぐずる様な締まりを堪能すると、ジョセフはエラ部分まで引き抜いて窮屈な入り口の締まりを味わった。
その淫靡ではしたない露伴の内部を擦り上げてやると、だらしなく半開きになった紅い唇からくぐもった嬌声が漏れる。

「んぁっ!ぁ…やぁ…ッ」

ジュク…ッ、ジョセフの動きに呼応して媚肉は淫らに収縮する。
逞しく隆起した腹に時折当たる露伴の性器は硬く反り上がり、先走りの蜜を滴り落としていた。

「ン…ッ、気持ちイイ?」

男が熱の籠もった息で問い掛けると、欲に濡れた端正な顔は覚束無い様子で小さく何度も頷いた。
淫らな戯れに興じた妖しい艶やかさに溢れた彼も淫靡だが、こうして羞恥に呑まれながらも恭順に快楽に浸る彼は滴る様な色香を染み出している。

「んふふっ、良いコ。」

ジョセフは肉を貪られる感触に震える身体を抱き締め、甘やかな唇の芳香を味わった。

「素直で可愛いコにはご褒美あげちゃうよん。」

軽い口調とは打って変わり、ジョセフはたぎった雄を敏感な内部の肉に穿ったまま、荒々しく腰を揺さ振り上げ始めた。
内分泌液と精液が淫らに絡み合い繋がった肉と肉からクチュッ、淫猥な音が互いの耳に反芻する。
露伴の体が逃げられない様、腰と太股に指を喰い込ませてジョセフは白い体を抱き留めながら、腫れぼったく熱を持った腹の中の肉を掻き回し、蠢く襞の感触を味わった。
彼を掴む腕にすら薄っすらと汗を掻く程に激しく。
その苛烈さに、雄々しい陰茎に敏感な粘膜を突き刺される度、狂おしいほどの快楽を感じる露伴は細い腰を妖しくくねらせながら、堪えられないといった風に艶やかな髪をシーツに打ち付けていやいやと頭を振る。
しかし体の淫らさを暴く様に臀部の丸みを強く揉まれて押し広げられ、より深くに突き入れられる。

「ッい…っぁあ…ッ!」

悲鳴染みた嬌声を上げる熟し切った紅い唇に相手の限界を悟ったジョセフは、くすりと唇に笑みを灯して不安定な体位を支える様に抱き抱えた。
触られてもいないのに既に硬く尖った彼の胸の突起を摘み上げ、追い上げる為に熱棒をずっぽりと咥え込ませる。
”露伴…もうイって良いぜ。”
グッと白い体を引き寄せて、最奥をエラで甘く蹂躙しながら耳元で囁き、耳朶を噛んでやると白い体は大きく震えた。
白い喉がクンッとしなる。
潤んだ黒紫色の瞳の先で男の掌が白い肢体の中心を握り、愛撫していた。
体の中で最も敏感で快楽に弱い肉を握り込まれ、更に腰の動きに合わせて敏感な性器を擦られる。
薄皮に指紋の輪郭を味あわせる様先走りの汁を塗り付けられ、浮き出た血管から体液を浸潤させて仕舞う位に扱かれた。
男の許しが出た為もあったのだろう。
下肢に激しく蕩けそうな快楽による懊悩が全身を駆け巡り、遂に露伴は白濁を噴き上げる。

「ああ"ぁっあ"ッ!!」

ビクビクと痙攣した媚肉が性器を締め付け、放った分の精液を取り戻す様に男の白濁を淫らにねだった。
体の中から得体の知れない濃密な脈動が走る。
あまりにも生々しい感触に白い臀部まで大きく震え出すと、その内部に包み込まれている熱棒が感触で分かるほど血管を怒張させながらビクンビクンと大きく跳ねた。

「露伴…ッン、ク…ッ!」

ドク、ドクッ!
搾り出す様に腰を打ち付け、孕み種を露伴の充血して湿り切った肉襞にぶちまけた。熱い飛沫が生々しい粘りを帯びて体内の粘膜に染み込んでくる…。
幾度も注がれた男の精が露伴の直腸をたっぷりと満たし、満たし切っても未だ足りないと奥へ、触れられる筈の無い柔肉へと浸潤して…精液が内臓にまで染み漏れてくる様な例えようも無い感触に露伴は全身を震わせた。

「アアッ、ぁッ…セ、フ、ぁっ…!…ジョ、セフ…ぅッ、!」

呼吸困難に陥りそうな程の随喜が爪先までも痺れさせる。
その喩え様も無く苛烈で甘美な感覚を享受したまま、露伴の意識は遠のいて行く。

「好、き…だぁ…ぁ、」

気を失う寸前、甘痒い刺激に支配されそうな唇を割って漏れた言葉は、繋がる悦楽に等しい生々しく甘い想いだった。
ジョセフは貫く前の、妖艶に此方を誘惑した彼の妖しさへ触れる以上に心臓を収縮させる。
ドクン…一拍の空白、しかしハッと息を飲み、ガクリと白い肢体がマットへと吸い寄せられて行くのを逞しい腕が抱き留めた。
気を失った露伴をそっ…と羽根に触れる様細心にジョセフはベッドの上に横たえる。
その時、ふと、男の太い腕に絡まる白い手が滑り落ちた。
力無く滑る彼の腕は、しかしもう意識の無い状態でも男の手首と微かに交わり続けていた。
…まるで置いて行かないでとせがまれている様に。
力無く倒れ込む恋人にエメラルドグリーンの瞳は稀有な輝きをその中に灯した。
彼の様子が愛おしくて、そして近い未来を暗示している様でジョセフは静かに、しかし深い溜め息を付いて自身の美しい瞳を苦しげに閉じた。




再び静かになった室内。
暗がりだった景色は薄っすらと明るくなり始めている、太陽が昇るのはもう直ぐかもしれない。
室内には艶やかな余韻がまだ色濃く残っている…しかしこれも掃除されれば跡形も無くなるだろう。
隣で横たわる白い肢体にも点々と紅い印、これも何時かは無くなって仕舞う。
そしてこの、奇妙でしかし途方も無く甘美な関係も、自分が去れば総てその跡方は無くなる。

何時かそう遠くない未来、自分がいなくなったこの部屋に入ってくる人物が現れるのだろうか?
ベッドの中で包まる彼を見つけるのだろうか、この白い肢体に触れるのだろうか。
何時か自分がいなくなった時、彼は一体誰を招き入れるのだろうか?
すっかり夢の中の住人と化した恋人を見詰めながら、ちりちりと脳裏に浮かぶ人影に形良い唇は苦々しい笑みを灯す。

「そんな事言える立場でも、もうそんな歳でもないのは分かってるけどさ…」

「俺も…愛してるよ、……誰かに明け渡すのを想像したくないって位…ね。」

”それが例え血の繋がった相手だったとしてもね…。”
独白と言うにも小さ過ぎる声で呟いた後、絶対の信頼感から全身を委ねる露伴の艶やかな髪を梳きながら、ソッと額に口付けし、ジョセフは照明を闇色に染めた。

未だもう少し、総てが明るみに出るには時間が欲しかった。




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