ギャンブル





 一体いつ寝ようと思ったのか分からなかったけど、オレは寝ていた。完全な覚醒と睡眠の隙間で、トランプを続けているらしいみんなの声を聞く。いや、みんなじゃあないらしい、じじいと露伴だけみたいだ。
 ここから目覚めて混ざりにいく気力はないので、目を瞑ったまま少しだけ手を動かすと人の温もりにぶつかった。触り心地のよい綿100%。承太郎さんも先に眠ったんだろう。
「そんなの!」と露伴が焦っている。まだポーカーをしているようだ。
「いいじゃあないか、ほら……どうする」
「あいつらが、起きたら」
「起きたら? それはそれじゃろう」
「やっぱり常識的に考えて、色々まずいですってば!」
   なーんとなく不穏な会話だ。二人とも無駄に金持ちだから賭けでもする気なのかもしれない。金が余っちゃってるとかほんと羨ましい話だよ、小遣いって呼べない様な額の小遣い、ぽろっとくれたりしねぇのかな。
「たしかにぼくは敗けましたけど……」
 でも、露伴のテンションの低い台詞を聞く限り、オレが想像していたのとは、ちっと違う事態みたいだ。
「何事も好奇心じゃあないのかい? それにやるって言ったのは君だよなぁ、露伴くん?」
 じじいは露伴の扱いが上手い。いつの間にそんなに仲良くなったのか……そして、露伴がぐっ、と息を詰めたのを肯定と受け取ったのか、衣擦れの音と一緒にじじいが何かした。
「……っ」
「ふむ」
「あ……っ」
椅子が軋んで、露伴が変な声をあげた。なんか変な雰囲気だ、うまくいえないけどやばい。濡れた音とか聞こえるんスけど、あの、その、エロビみたいな……、いやいやねえよ、それはねえよ。
「ところで露伴くん、彼女は?」
「それ、今聞くんですか? それにあなたには関係ないでしょう」
 オレが寝たふりしながら顔を蒼くしたところで、承太郎さんが「ん……」と呻いた。もしもここで承太郎さんが起きたならやり過ごすのは不可能だ。オレはこのままスルーするつもりだったのに。スルーするつもりだったのに全力で! 絶対承太郎さん、無表情で何やってんだってつっこんじまうもんなぁ。
 仕方がないから観念して、いち、にぃ、さんで目を開けよう。
 そこにあるのが安堵か混乱かは、やってみなきゃあ分からない。




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