かくれんぼ 仗助の身体を抱きしめるようにしながら、「これはまずいことになったぜ」とジョセフがぼやく。仗助は内心、全部あんたのせいだろと毒づき、自分でもどこがどうなっているのか分からない無理な身体の折りたたみ方と、近すぎる父親との距離に辟易した。 ジョセフの容姿が突然20歳前後まで若返った原因は不明で、スタンド攻撃かもしれないと考えた承太郎は、現在SPW財団の支部でスタンド関係の資料を読み漁り、必死の調査を続けている。しかし当のジョセフは焦ったってしょうがないと気楽に構えていて、折角杖なしで歩けるんだからと、アクティブに街中を闊歩していた。 承太郎がいない以上、ジョセフの面倒を見るのは仗助しかいない。従って、仕方なく仗助はジョセフの付き添いを引きうけている。目立つ風貌で「仗助くん!」と騒ぎながら学校に迎えに来られたり、こんな風に家に上がりこまれたり、既にかなりの迷惑をかけられているので、仗助としては正直、彼には一日中家で寝ていてもらいたいところなのだが。 大柄な男が二人で入るのに、服が詰め込まれているクローゼットは明らかに無理のあるサイズだった。しかし咄嗟に隠れる場所がここしかなかったので仕方がない。 ジョセフが仗助の持っているCDを、コメントとともに散らかしたところで運悪く帰宅した朋子は、ドアを挟んだすぐ向こうのリビングで、時たま独り言を言いながら、なにやら作業をしている。仗助は一刻も早く自分の母親がどこかに行ってくれることを祈り、「だから嫌だったんだ」と呻いた。 言動まで若返ったジョセフは「仗助くんの部屋が見たいんだよねー、いいでしょ?」と、軽い調子でここにやってきたが、彼が朋子と鉢合わせしたらどんな事態になるかは初めから想像に難くなかった。ジョセフが嬉々として自分の部屋を見物している時点で仗助は気が気でなかったのだ、今更あとの祭りだが、あの時にきちんと自分の懸念を伝えてジョセフを追い出すべきだった。 ジョセフがもぞもぞと身体を動かし、「仗助くん」と自分の名前を呼ぶので、仗助はやっと暗闇に慣れてきた目で、すぐそこの自分に似た、愛嬌のある整った顔を眺める。 「何すか?」 小声で応じるとジョセフは、「うまいこと、ここから脱出する方法を考えついたよん」とにやりと笑って、「おれに任せなさい」と仗助の髪を撫でた。 「ちょっとセット崩れるじゃないっすか!」 「細かいこと気にしてると女の子にモテないぜー? ま、仗助くんなら心配いらないだろうけどね」 父親らしからぬ軽薄な台詞にぽかんとした仗助の額へ、今度は唇が落ちてきた。からかうのならいい加減にしてほしい。 「何するんすか!」 口を尖らせた仗助を無視して、ジョセフは何度も息子の顔へキスを降らす。彼が自分の父親だという事は承知しているが、如何せん今の彼は自分と同年代の外見をしているし、仗助としては何だか変な気分だ。 ……ん、変な気分だって? 何だそれは? 思わず固まってしまった仗助の様子に目ざとく気づき、ジョセフは「ん? 仗助くん照れてるの? かわいいねえ」とからかってくる。 「そういうこと言わないで欲しいっす!」 頭を抱えながら仗助は、岸辺露伴が前に話していたことを思い返していた。 「いいかい、もう随分使い古されているネタだが、幼馴染設定って言うのは本来リアリティがないんだ。きょうだいと同じで、一緒に育つと異性として見れなくなるもんなんだよ。ああ、だから近親相姦っていうのも長年同居してたなら難しいだろうな。ずっと離れて暮らしていたのなら有りうるかもしれないけど」 それはよくよく考えると仗助の、実の親相手にどぎまぎしてしまっている現状を、肯定してくれる台詞のような気がした。仗助はジョセフと最近初めて会った訳だし、人にこんな風に扱われることにも慣れていない、きっと仕方のないことなのだ。悪いのは全て、仗助に父親として以上のちょっかいをかけてくるジョセフだ。 「いい考えがあるっていうなら、さっさと出ましょーよ」 これ以上このままではいられないと急かす仗助に、ジョセフはどこか不服そうに眉を寄せた。 「オレは、これはこれで楽しいんだけどね」 その台詞を聞いて仗助は溜息を吐く。 「オレはちっとも楽しくないっすよ」 この状況を仗助が楽しいだなんて思えるわけがないだろう。全くなんて迷惑な父親だ。 |