美しき者





 ――本日はよろしくお願いします。
岸辺露伴(以下露)「さっさと終わらせてくれよな、ぼくは暇じゃないんだ」
 ――そう仰らずに。ではまず話題の空条承太郎さんの卒業の件からお伺いします。露伴さんは唯一事前にお話を聞かされていたとか?
露「そうだよ」
 ――なぜ露伴さんに打ち明けたのだと思いますか?
露「さあ。聞かなかったな、そういえば」
 ――話を聞いたとき残念だった?
露「あの人を蹴落とす機会を失うのは、残念だとは思ったよ」
 ――承太郎さんとの特別なエピソードなどありますか?
露「特別?」(考え込む)
 ――衝撃を受けた出来事や、言われて嬉しかった言葉などでも。
露「……ああ。あるよ、嬉しかったこと。ぼくの作った飯を、『ジジイと行った飯より美味い』って言ったとき」
 ――ずいぶんと仲がいいんですね。
露「


 カシャ、と響いた乾いた音に、雑誌に目を落としていた承太郎が顔を上げた。
 目が合って二秒後、「何してるんだ」と静かな声で尋ねられる。
 露伴はケータイの画面に「送信完了」と映し出されるのを確認してから、悪い笑みを浮かべてみせた。
「『お家デートなう』って書いてじょじょたすに上げてやったんですよ」
 いくつか料理の並んだテーブルの向こうから手を伸ばし、ケータイの画面を承太郎に見せてやる。写真は二人分の料理と、雑誌を持った承太郎の手元が写り込んだものだ。
「まあちょっとした遊びです。ファンが見れば服装やアクセサリですぐにあなただって分かる」
 更新ボタンを押すと、一気に何十ものコメントがついた。「誰!?」という声もあれば、「露伴送信ミス??w」「ついにやっちゃったの(笑)」などというコメントもある。その清々しいまでの釣られっぷりに、ついニヤニヤと口元が歪んだ。
 承太郎の視線を感じて、咳払いをひとつする。
「ラザニアがもう少しで焼けますから」
 そうしたら食事にしよう、というニュアンスを込めて言うと、承太郎は眺めていた雑誌を閉じた。
 ふと手を口元へやって、考え込む素振りを見せる。
「俺とあんたは仲がいいのか?」
「何ですか急に。……ああ、その雑誌か」
「この間、仗助のヤツにも『ここんとこ異常に露伴と仲良くないスか』と聞かれてな」
 承太郎の淡々とした言い方でも、嫉妬にまみれた仗助の顔が想像できそうだ。俄然興味が湧いて、ケータイから承太郎に視線を戻す。
「へえ? で、何て言ってやったんです?」
「『飯くらいお前とも食うだろう』と」
「あなた意外と性格悪いですよね。『それとこれとは全然別じゃないっスかぁ〜ッ!』って地団駄踏んで憤慨するさまが目に浮かびますよ」
 わざとらしく物真似してみせると、承太郎は珍しくクックと小さな笑い声を立てた。
 露伴のケータイの中では、このお遊びの真相に気づき始めた者がちらほら現れていて、まあぼくも少しは楽しめたな、と露伴は満足する。
「で、実際本当なのか?」
 ネタばらしはいらなさそうだな、と考えながらケータイを見ていたところに飛んできたその言葉はあまりにも脈絡がなかった。露伴はたぶん、やや面食らった顔をしてしまったのではないかと思う。
 飲み込めない、という顔で承太郎を見たのが伝わったのか、承太郎は
「噂」
 と端的にワードを追加した。
 今おこなったお遊びと、噂、本当なのか、という言葉が線で結ばれる。
 この人もぼくが真実潔白かどうか確信することはできないのか、と思うと何だか面白くなってしまって、同時に疑われたことに対して怒りも覚えた。
「ぼくが取っ替え引っ替えセックスして遊んでるかどうか、あなたが確かめてみたらどうです?」
 嫌がらせで過激な言葉を投げつけてやっても、承太郎は眉ひとつ動かさない。
 チーン……とキッチンから、オーブンが鳴いた音が聞こえてきた。焦げ目のついたラザニアが、オーブンの蓋が開くのを待ち構えているはずだ。
 承太郎は掴めない無表情のまま、
「飯のあとにな」
 と本気かどうか分からない声で言った。


 ――ずいぶんと仲がいいんですね。
露「べつにそういうんじゃあないよ。君らはどうせぼくと承太郎さんが水面下で認め合った特別な関係だったとか、ゴシップ的な美談を期待してるんだろ? はっきり言っとくが、そんなものはないよ」
 ――ばっさりいきますね。しかし卒業に関して打ち明けたりと、承太郎さんは露伴さんを信頼しているような雰囲気があるように思います。
露「ぼくをっていうか、ぼくの他にろくなヤツがいなかったんだと思うね」
 ――(笑)それではこの件についてはそろそろ。最後に、露伴さんの思う空条承太郎とはいったい何でしょう?
露「一番美しい人。……そういう歌があるの、君、知ってるかい? 一番はぼくだなんて言ったら、首を刎ねられちゃうんだぜ」
 ――過激ですね。今度歌を聞いてみます。それじゃあ、次は今回の撮影についてのお話を。




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