「これ見てくれよ。学校祭の時の写真なんだけどよ、この億泰のツラすげえ笑えるだろ?」 「おい仗助、その写真は持ってくんなって言ったろ!」 「いいじゃない、みんなすごく楽しそうで。あたしは好きよ、こういう雰囲気」 例の小道に入った途端、賑やかな声が聞こえてきた。顔見知りの高校生達が、鈴美を囲んで楽しそうに盛り上がっている。今日は仗助や億泰だけではなく、康一くんや由花子まで来ていた。 「最近、由花子ちゃんまでここに来てくれるようになったわよね。すごく嬉しい」 鈴美が言うと、由花子は急に顔を違う方向に向けて視線を逸らした。 「勘違いしないでよね、あたしはただ康一くんがここに行きたいって言うから」 そんな由花子の様子を見て、鈴美と康一くんは顔を見合わせて苦笑した。多分、ぼくじゃなくても由花子を知っている人間ならば分かっているはずだ。 例え康一くんが行きたいと言っている場所でも、そこが気の進まないところならついて来るはずがない。あいつはそういう女だと。 ぼくは引き返すこともできないまま、鈴美や高校生達の姿をこの場から眺めていた。胸に広がる、もやもやした気持ちの正体を掴めない。 別の日に小道に行くと、またしても先客がいた。今度は高校生達ではない、ぼくより年上のふたり組だ。 「難しい子じゃが、あんたには懐いているようじゃのう」 帽子やサングラスを身に着けた赤ん坊を抱いている鈴美の前で、ジョースターさんが楽しそうに笑っている。その横にいる承太郎さんがポケットから何かを取り出して、鈴美に見せた。 ここからではそれが何なのかは見えないが、明るくなった鈴美の表情を見る限り、彼女にとってはとても嬉しいもののようだ。 「わあ……本当に持ってきてくれたのね。ありがとう、承太郎くん」 最後の一言を聞いて、ぼくは思わず自分の耳を疑った。確かに鈴美は、生きていれば承太郎さんよりも年上になる。くん付けで呼んでもおかしいことはない。 しかし、まわりの人間は誰も承太郎さんに対してそういう呼び方はしないせいか、あのふたりの仲を勘繰りそうになってしまう。 承太郎さんは鈴美に礼を言われると、まるで照れたかのように帽子のつばの部分を少し下げて顔を隠した。 ……おい、一体何なんだこの雰囲気は。しかも話の内容からして、承太郎さんは何度もここに通っているようだ。鈴美はぼくの知らないうちに、承太郎さんに何を頼んだんだ? もう耐えられなくなり、ぼくは物陰から出ると鈴美達のほうへと歩み寄って行く。 「あっ、露伴ちゃん!」 ぼくの存在に気付いた鈴美が、笑顔で手を振ってきた。ジョースターさんと承太郎さんは鈴美に挨拶をすると、小道から出るためポストのほうへと向かって行った。 「さっき、承太郎さんから何を貰ったんだ?」 鈴美とふたりきりになったぼくは、気になっていたことを聞いてみた。すると鈴美は、手のひらに乗せていたものをぼくに見せる。そこにはいくつかの、小さな貝があった。 白や淡いピンクなど色は様々だが、割れていたり汚れがあるものはひとつもない。きれいなものだけを選んできたようだ。 「あたし、この小道から離れられないでしょ。よく海に行く承太郎くんが羨ましいって言ったら、今度いいものを持ってきてやるって」 「それで、この貝を」 「ねえ、あたし露伴ちゃんに感謝してるの」 「ぼくに? 何でだ」 「15年間、生きてる人とは誰とも話ができなくて。アーノルドはいてくれたけど、やっぱり寂しかったの。でも、ここでまた露伴ちゃんに会えてからは、みんながここに来てくれて毎日とても楽しいわ」 嬉しそうに語る鈴美を見ていると、今までずっと苛立っていたのがバカバカしくなった。鈴美に会うために通っていたこの場所は、もはやぼくだけのものではない。 それでも鈴美が幸せなら納得するしかないのだろう。 決して口には出さないが、ここに来る皆は別にぼくが呼んだわけじゃない。本人は気付いていないだろうが、鈴美の人徳が皆を集めているだけだ。 なのにそれを、ぼくのおかげだと言って感謝してくる。 誰よりも早く気付いたのは、ぼくだ。鈴美はそういう女だと。 |