『なあ露伴、俺達は友達になれねえのか?』 『僕の忠告を無視しやがったくせに、何が友達だ』 『しょうがねえだろ、ひとりで逃げるわけにもいかなかったしよ……』 『お前なんかに借りを作るくらいなら、あのまま死んだほうがマシだったぜ。余計な真似しやがって、むかつく奴だ』 この時の僕は、本当にあいつのことが気に食わなかった。 トンネルで敵スタンドに捕われた僕を追ってきて、せっかく罠だと教えてやったのに逃げるどころか自信満々に踏み込んできた。 救いようのない馬鹿だ。僕を放っておいてひとりで逃げれば、巻き込まれずに済んだのに。 あんな奴に、付き合ってられるか。 久し振りに乗った電車は、ありえないほど混んでいた。日曜のせいもあるだろうが、家族連れや友人、そして恋人同士と思わしき集団で車内が埋めつくされている。 これから行こうとしている場所には駐車場がないので、仕方なく乗ったらこの有様だ。 あと十数分は降りられない。窮屈で気分は最悪だ。 次の駅について電車が止まると、更に乗客が押し寄せてきた。これだけ混んでいるのにまだ乗ってくるのか、いい加減にしてくれ。 駅から乗ってきたうちのひとりが、他の乗客に押されるように僕のそばまで近づいてきた。 「……お前は」 僕が呟くと、目の前まで迫ってきた背の高い男は驚いていた。いつ見ても、腹の立つ顔だ。 「何であんたがここに」 「それはこっちの台詞だ、くそったれが」 「別に俺だって会いたくなかったぜ、あんたなんかに」 仗助はそう言って、僕から目を逸らした。 友達になりたいという仗助の要求を拒んで以来、僕達の関係はまるであのトンネルでの件がなかったかのように、相変わらず険悪だ。 気まずさ以外は何も生み出さない、プラスになることはない関係。そんな僕と仗助が友達なんかになれるわけがない。なのにこいつは、一体どういうつもりであんな話を持ちかけたのだろう。 全く分からない。 何の会話もないまま、電車は次に停まった駅で更に乗客を吸いこんでいった。人波に流されて僕は車内の隅に、そして仗助は僕を両腕で囲うような体勢になる。この状況で少し間違えば、 僕と仗助の身体は間違いなく密着するだろう。 「おい、離れろ」 「それができたら、とっくにそうしてるぜ。見て分かんねえのかよこの状況」 分からなくはないが、こいつがすぐ目の前にいると突き放すような言葉が無意識に口から出てくるのだから仕方がない。これは本能と言ってもいい。 仗助は電車が揺れる度に、苦しそうな表情を浮かべている。最初は何事かと思ったが、仗助は僕とつかず離れずぎりぎりの距離を保ちながら、押し寄せてくる乗客の圧力に耐えていたのだ。 こいつの両腕に囲まれたまま隅に立っている僕は、まるで仗助に守られているようだった。自分だけの力では耐えられなくなってきているのか、時々スタンドの姿がぼんやりと見える。 「どういうつもりだ」 「俺にも分からねえよ、説明させんな」 「まさかお前、僕に恩を売る気か。あからさまな真似しやがって」 「あんた、どこまでひねくれてやがるんだ……」 そんな会話をしながら僕は、降りる駅に着くまで目の前でかすかに動いている仗助の喉や、少し厚めの唇を眺めながら過ごした。 別に見たかったわけじゃない、視界に入ってくるものがそれしかなかっただけだ。 降りる駅まで一緒とは、何かの因縁としか思えない。 さっさと駅を出ようとした僕を、後ろから仗助が呼び止める。振り返ると、どこか気まずそうな表情で僕を見ていた。少しだけ沈黙が流れた後、仗助はようやく口を開く。 「さっきのあれだけどよ、深い意味はねえから」 「僕は気にしていない」 「それから……俺達、ずっとこのままなのか? 本当に分かり合うことはできねえのかよ」 まるで縋るような視線だ、こいつでもそんな顔をするのか。すぐに切り捨てることは簡単なはずが、不覚にも一瞬だけ仗助にほだされそうになってしまった。 まさか僕が、散々な目に遭わされて恨んでいるはずのこいつを受け入れようと思うなんて、信じられない。 はっきりと否定しなければならない。お前なんかとは一生分かり合えないと、今ここで言わなければ。 仗助と目を合わせた僕は、固い口調で名前を呼んだ。 「僕は、安くないぞ」 「……えっ?」 「簡単にお前の思い通りには、ならないからな」 僕の返事に呆然としている仗助を残して、改札口に向かって歩く。 「ちっ、ちょっと待てよ露伴! 今のどういう……」 追いかけてくる仗助の声が、だんだん近くなる。 説明させるな、僕にも分からないんだから。 |