赤く塗られた10本の爪に、つい見入ってしまった。
「……いい色だな」
「もうちょっと新鮮な反応を期待してたのに」
 承太郎が呟いた短い感想に、露伴は面白くなさそうに自分の爪を眺める。嘘でも驚いてやれば喜んだだろうか。
 この爪の主が男なら、明らかにそいつはどうかしていると思う。しかし目の前にいるのは町でも有名な変わり者だ。女装をしていようが、その辺りに転がって寝ていようが全て 『こいつならやりかねない』の一言で片付く。なので今更、女がやっているように爪に色が付いていても驚くことではない。おそらく彼を知っている人間のほとんどがそう感じているはずだ。
「漫画の資料として買ったんですけど、これ自分に塗ってみたらどうなるかと思いまして」
 そう言って露伴はそばに置いてあったバッグの中から、赤い液体に満たされた小瓶を取り出してテーブルの上に置いた。何故それをここに持ってきたのか分からない。
「とりあえず塗ったのはいいけど、まだこんなに余ってるんですよね」
「使い切るのが大変そうだな」
「だから承太郎さんにも手伝ってもらいたくて」
 すでに露伴は逃がさないと言わんばかりのぎらぎらした目で、こちらを見つめてくる。何がなんでもやる気だ。
「あんたは本気で、おれに似合うと思っているのか。それが」
「似合うかどうかは別として、あなたの爪にこれを塗ってみたい。ちょっと興奮するかも」
 血のように真っ赤に染まった指先で、露伴は小瓶の蓋部分を弄ぶ。何かに対して1度でも興味を持つと、満たされるまで食いついてくる。それはこの男の病気だ。うっかり 関わってしまったせいで、容赦なく他人を巻き込む面倒な病気に付き合う羽目になるのか。
「それともピンクのほうがお好みですか、すごい濃いやつ」
「色の問題じゃない」
「もし塗らせてくれたら、ぼくを朝まで好きにできる……って条件なら?」
 薄く笑みを浮かべながら、ゆったりとした動作で足を組み替えた。好奇心を満たすためなら自分自身を差し出すこともためらわない。病気もここまで突き抜けていると逆に感心する。
「前払いなら引き受けてやってもいいぜ」
「わがままだなあ、まあいいけど」
 露伴は完全に自分を棚に上げた発言をすると、ソファから立ち上がって歩み寄ってきた。
 いつも抱く直前に見せる熱い眼差しで、首に両腕を絡めてくる。この瞬間、急に空気が変わった。今までは饒舌だった露伴が、何も言わずに承太郎の肩に顔を埋めている。
「こうしているの、好きです」
「やってる時よりもか」
「それとこれとは別。分かってないな」
 不意をつかれて押し倒された。承太郎の股間の辺りに跨った露伴は、まだ脱いでいない状態で腰を前後に動かして煽る。一方的にじらされるのは面白くないので、両手で腰を掴むと 乱暴に突き上げる動きで応えてやった。実際に中を抉られているわけでもないのに、露伴は喉を反らして声を上げた。
 朝まで好きにできる権利を駆使しようと思ったが、中に直接精液を注ぎ込んでも文句を言わなくなった露伴が普段は拒む抱かれ方が想像できない。




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2011/10/7