「承太郎さんでも泣くことってあるんですか?」
 たっぷりと泡を立てたスポンジを逞しい胸元に滑らせながら、露伴がそう問いかける。
 透明のバスチェアーに腰掛けた承太郎の前に両膝をついて胸や腹、そして腕を丁寧に擦っていく。ここは露伴の自宅にある風呂場だが、ソープ嬢にでもなった気分だ。
 手の動きや顔を見られていると緊張する。ベッドの上では散々いやらしい行為をしてきたのに、こういう機会は今回が初めてだった。
 引き締まった太腿の内側に行き着くと、股間で勃ち上がりかけた性器が視界に入る。しかしあえてそこは無視して、爪先までスポンジで擦り白い泡を広げていった。
「……泣かねえな」
「あなたが涙を流すのって、想像できないんですよね。でも見てみたい」
「いい歳した野郎の涙なんか、みっともねえだけだ」
「そうかな、きっと綺麗だと思う。描きたくなるかも」
「勘弁してくれ」
 頭上からため息が落ちてきた後、唇が触れ合う。そのまま舌を絡めているうちに、握っていたスポンジが手から離れた。抱き寄せられると身体が密着して、承太郎の胸元に ついている泡を挟みながら深いキスを続ける。風呂場で泡まみれというシチュエーションのせいで、普段するものよりずっと卑猥に感じた。
 上を向いた承太郎の性器はすっかり硬くなっていて、そっと握った手の中で先走りを溢れさせていた。これでは完全にソープ嬢だな、と思いながら泡のついた手で上下に扱く。
 こちらの性器も同じような状態だが、息を震わせる承太郎に興奮してそれどころではなかった。両手を使い、泡と先走りが混じったものを性器全体に塗り込める。
「気持ち良くて、泣くかもしれませんね」
「どっちの話だ?」
「それはもちろん……」
 あなたのほうですよ、と言おうとしたが突然腰を浮かせた承太郎に肩を掴まれ、濡れた床にうつ伏せにさせられる。指が尻の窄まりを探るように動き、露伴は息を飲んだ。




 解された腸壁を猛った性器が出入りする度に、堪え切れずに声を上げてしまう。風呂場では声が変に反響するので、こういう時はひとり暮らしで良かったと感じる。外を気にする必要もない。
 伏せていた顔を上げると、正面にある鏡に承太郎の姿が映っていた。露伴の腰を両手で掴み、荒い息を吐きながら乱暴に腰を打ちつけている。
 鏡越しに目が合い、薄い笑みが返ってきた。
「ん、いいっ……ああ……」
「締まってるぞ」
「ひっ、あ」
 まともに言葉が出てこない。あの太く硬い性器で、奥まで犯されているのだ。
 承太郎の形に合わせて拡げられた窄まりや内壁を頭に思い描くだけで、更に狂わされたくて腰が揺れる。
 性器に絡まりながら中から溢れてきている腸液が、ぐちゅぐちゅと背後で音を立てていた。
 温い滴が、頭上のシャワーヘッドから延々と床に伝い落ちている。この場所なら、寝室よりも後始末が楽で良いかもしれない。汗も精液も全て、面倒な痕跡は欠片も残さずに流してしまえるのだから。
 他人を受け入れるようには出来ていない身体でも、少し無理をすれば繋がれる。この男と出会って、初めてそんな気持ちになれた。
 背中に覆い被さってきた承太郎が、先ほど立てた泡を使って露伴の胸を愛撫してくる。白い泡が潰れる音、摘まれた乳首から感じる鋭い刺激。耳を軽く噛まれて、甘い声が出る。
 限界が近いのか、打ちつけてくる腰の動きが激しくなってきた。まるで拘束するように両脇から手を差し入れられながら、肌がぶつかり合う生々しい音を聞く。
 抜けるぎりぎりまで腰を引き、一気に奥を貫かれた。待ち望んでいた熱い塊が何度か注がれ、狭い腸壁を満たしていった。
 床に顔を伏せたまま、露伴は口を開く。
「じょ、たろう……さん」
「ん?」
「……好きです」
 数秒待っても、返事はなかった。拒まれたほうがいい。もし同じ気持ちだったら、そのほうが今は辛い。だったら行かないでくれと、きっと縋りついてしまうだろう。
 吉良を倒して数日が経ち、これが承太郎と過ごす最後の夜になる。心も身体も繋ぎ止める手段は無く、せめて承太郎の前では涙を流さないように強がることしかできない。




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2011/10/12