「そろそろ来る頃だと思いましたよ」
 チャイムを鳴らして数秒後、開いたドアから姿を現した露伴は笑っていた。こちらの状況を把握しているのか、思い通りになって愉快だと言わんばかりに。
 本当はもうここには来たくなかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。何とか堪えてきたがもう限界だった。
「承太郎さんがぼくに会いに来てくれるなんて嬉しいなあ、愛されてるんですよね?」
「正気か、あんた」
「ぼくはいつでも正気ですよ、言われるまでもなく」
 中に入ってください、と言われて承太郎は無言で家の中に足を踏み入れた。どんな手を使ってでも、かけられたスタンドの力を解除させなくてはならない。




 数日前、承太郎は露伴に押し倒された。話があると言われて部屋に入れたのがそもそもの間違いだった気がする。あなたに興味があるんです、という囁きと股間を愛撫してくる 手の動き。しかし自分には男相手にその気になるような性癖はなく、ひたすら不快なだけだった。
 承太郎の腰の上に跨り、馬乗りになった露伴に告白されたが、承太郎は当然それを拒んだ。悪いがおれにはそういう趣味はねえんだ。ぼくと付き合えば、気持ちも変わりますよ。期待されても 困る、さっさと離れろ。そんなやり取りが続いた後、露伴の表情が冷めたものに変わった。ようやく諦めてくれたのかと安心していたが、甘かったようだ。露伴はスタンドを 発動させ、動けない承太郎に何かを書き込んだ。嫌な予感がして視線を合わせると、露伴はとんでもないことを告げてきた。
『あなたはこれから、ぼくの許可無しでは射精できない。いくらセックスや自慰で気持ち良くなっても、イケないんですよ。面白いでしょう?』
 それを聞いて凍りついた。こいつは狂っている。望みが叶わなかったからといって、えげつない手段を平気で使う。
 あっさりと露伴は承太郎から離れると、嬉しそうに部屋を出て行った。ひとり残された承太郎は絨毯に転がされたまま、呆然と天井を見上げた。




「あれから何日経ちましたっけ? 今日まで1回も出してないのだから、この中に濃厚な精子が大量に溜まってるってことですよね……興奮しますよ」
 寝室のベッドの上で露伴が、承太郎の性器をねっとりと舐めて吸い上げる。この男を好きなわけでもなく、抱きたいという気持ちもない。それでも指摘された通り、数日間全く 射精していない状態だった。
 どこで覚えてきたのかは知らないが、露伴の舌遣いは執拗で巧みだ。スタンドをかけられていなければ、男に性器をしゃぶられて絶頂を迎えると いう醜態を晒す可能性もある。今もいつ解除されるか分からないのだ。生温かい口内で締め付けられ、呼吸が乱れた。
 服も下着も全て脱がされ、露伴も同じ状態になっている。無駄な脂肪のついていない、少し痩せ気味の身体。不健康というほどではないが、決して逞しいとは言えない。
 露伴は顔を上げるとベッドの棚から何かを手に取った。小さな容器の蓋を開け、その中身を完全に勃起した承太郎の性器に塗り込む。とろりとした、透明な液体だ。
 そして自身の尻にもたっぷりと馴染ませている露伴の姿を見て、ぞっとした。これから何が起こるのかを想像してしまった。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。1度やってみればきっと、夢中になる」
「……あんたは一体、おれのどこを」
「ただ、あなたをぼくのものにしたいだけ」
 淡々と言うと露伴は、怪しい液体で濡れた性器に腰を落としていった。口で攻められていた時とは、比べ物にならないほどきつい締め付けに小さく呻いた。
「ああ、すごい……承太郎さんのものが、ぼくの中に入ってる」
「くそっ……」
「ちゃんとスタンドは解除してあげますから、濃いのをたくさん出してくださいね」
 騎乗位で繋がった状態で、激しく腰を上下に揺さぶる露伴の目は熱っぽく潤んでいた。
 それを下から眺めながら、やがてこのまま射精したとしても自分は本当の意味では解放されない予感がした。
 露伴の歪んだ執念が何日も、この身体を侵した。これも愛の形だというのだろうか。
「ぼく、今すごい幸せです。気持ち良くて、泣きそう」
「これで、あんたは満たされるのか」
 問いかけても、答えは返ってこなかった。露伴は何も言わずにこちらをまっすぐに見つめた後、唇をかすかに動かす。承太郎の頬の辺りが紙のように捲れた。
 スタンドが解除されたのか、と思いながら承太郎は露伴の中に精液を注ぎ込んだ。今まで抑えられていたせいか、その瞬間の快感は今まで感じたことがないほど強烈だった。
 とろけそうな表情でそれを受け止める露伴は、びくびくと身体を震わせている。上を向いていた露伴の性器からも、精液が噴き上がった。
 縋るような口調で、名前を呼ばれる。散々屈辱を受けたはずが、何故か突き放せない。




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2011/11/25