黒い薄膜 太腿の辺りまである長い靴下のようなものを強引に履かされて、仗助は顔を引きつらせていた。サイズが合ってない以前に、大体これは男が履くものではない。足全体が窮屈だ。 先ほど聞いた話だと、これはニーハイソックスというものらしい。今の季節、女子が私服で履いているのを見かけるが名前は初めて知った。 ボタンを全開にした上半身の学ランはそのままに、下半身は下着とニーハイソックス。女装とも言えない、誰が見ても意味不明なこの格好で部屋の真ん中に立たされていた。 そんな仗助に向けられている、露伴の視線は冷たい。 「お前、全然似合ってないじゃあないか! せっかくこの日のために用意してやったのに!」 「無理矢理履かせておいて、そりゃねえだろ!」 「はあ、もういい。さっさと脱いで帰れ」 うんざりしたと言わんばかりにため息をついて、露伴は追い払うように手をひらひらと振った。前から分かってはいたが、本当に自分勝手で腹の立つ男だ。もちろんこのまま 素直に引き下がるわけにはいかない。 自分は露伴の下僕ではないのだから。それをこの機会に、はっきりと示すべきだ。 「最初から、あんたが履けば良かったんじゃねえの?」 「お前に履かせたほうが、面白いと思ったんだよ」 「ああ……確かにそうだよな。こういうのは20歳の年寄りなんかよりずっと、16歳の高校生のほうが似合うもんな」 仗助が皮肉っぽく言うと、露伴は眉をひそめてこちらを睨んでくる。わがままな厄介者だが、年下からの挑発には冷静さを失う。嫌いだと言いながらも絡んでくる露伴といる うちに把握した事実だ。 「このぼくを、また年寄り扱いしやがって……いいぜ、お前よりぼくのほうが優れていることを分からせてやる」 以前のバスでのやり取りを、未だに根に持っているらしい。 さっさと脱げ、と言われて仗助は足に食い込んでいるニーハイソックスを脱ぎ捨てた。 ジーンズを脱いで、少し前まで仗助が履いていたニーハイソックスを今度は露伴が身に着けている。仗助よりも肉付きの薄い足を、かすかに光沢のある黒い膜が覆う。 今まで腰掛けていたソファの前に立ちそんな姿を晒す露伴を、仗助は制服のズボンも穿かずに眺めていた。引き締まった太腿と、紺色のボクサーパンツ。 それらはすでに何度か見ているが、今日は両足を包むアンバランスな存在のせいでどこか卑猥に感じる。 「どうだ、お前よりも完璧に履きこなしているだろう」 「ん、あ、そうだな……うん」 「どうした、急にそわそわして」 仗助の時とは違い露伴は、開き直った様子でニーハイソックスを履いていた。自ら感じている締め付けや感覚を味わっているのか、身を屈めて足を撫でたり生地を引っ張ったり している。仗助は息を飲みながら、露伴の手の動きを視線で追う。そして顔を上げた露伴と目が合った途端に、慌てて俯いた。密かに生まれていた欲望を読まれたくない。 露伴は背後のソファに腰掛け、仗助に手招きをする。何かと思いながらも従うと、片足を伸ばした露伴が仗助の股間を爪先で撫でてきた。突然の刺激に堪え切れず、小さく呻く。 下着越しの愛撫はじれったい。性器の形をたどるように、ニーハイソックスに包まれた爪先が巧みに動く。上下に擦った後は、亀頭のあたりをぐりぐりと押してきた。 「っ、う……」 「硬くなってきてるぞ、変態が」 罵られても、股間は萎えるどころかますます硬度を増して膨らんでくる。窮屈さに耐えられなくなり、仗助は荒く息を吐きながら下着を掴んで足元まで落とす。 完全に上を向いた亀頭からは、透明な先走りが漏れていた。露伴から与えられた快感に、屈服した証を正面から見られている。食い入るようなその視線にすら、心を乱されてしまう。 自分は無意識に期待しているのだ、これから露伴が何をしてくれるのかを。 「ガキのくせに、ここだけは一人前なんだな」 薄い笑みと共に言うと、露伴は再び爪先で性器を攻めてくる。今度は先ほどとは受ける刺激が全然違う。ざらついたニーハイソックスの下に宿る体温が伝わってくる気がした。 両足で性器を挟み、器用に擦り上げる。黒い爪先を濡らす先走りが溢れて止まらない。 「もう、どろどろだな」 吐息混じりでそう言われた瞬間、仗助の中で何かがあっけなく弾けた。露伴の両手首を掴み、ソファに押し倒す。何事かをわめく露伴にも構わず覆い被さり、勃起した性器を 露伴の下半身に押し付けた。 両足を肩に抱えながら奥まで性器を埋めると、露伴は苦しそうな声を上げた。 数日ぶりに味わう腸壁のきつい締め付けに、まだ経験の浅い仗助は理性を奪われて夢中で腰を打ちつける。 露伴が何故この日にニーハイソックスを用意したのか、今の仗助にはそれを考えている余裕はない。性器を抜き差しするたびに、ぐちゅぐちゅといやらしい音が立つ。普段は偉そうに振る舞う露伴も、 セックスの最中は一転して雰囲気に流される。そんな落差が、たまらない。 繋がったまま身体を倒して、仗助は露伴の唇を貪った。その最中、露伴が仗助の腰に両足を絡めてくる。もっと奥まで突いてほしいと、無言で訴えられているようで興奮した。 先走りで濡れている、黒い薄膜に覆われた露伴の爪先を思い出す。今までは考えもしなかった行為があまりにも扇情的で、癖になりそうな自分が怖い。 |