保健室の純情/3 白衣やズボンを脱ぎ捨てた露伴は、白いシャツだけを身に着けたままベッドに横たわった。 興奮や緊張で震える手で制服を脱ぎ、仗助は下着1枚の姿で露伴に覆い被さる。 こんなことをして本当にいいのだろうか、という迷いも、こちらに視線を向けている露伴の目を見た途端に薄れて消えていく。 ここまでしても拒まれていない。この先にある展開をあれこれ想像してしまい、息を飲んだ。 露伴の股間では、いつの間にか性器が勃ち上がりかけていた。先ほどのキスで感じたのだろうか。それを見て仗助も、下着の中で自身の性器にも一気に血が集まるのが分かった。 「いい身体してるんだな」 そう呟いた露伴の手が、仗助の肩や胸元を滑り落ちるように触れていく。父親が外国人であるせいか、その影響で同年代の男よりも身体つきはしっかりしている。 「もっと、俺に触ってくれよ」 あまり体重をかけないように気を遣いながら身体を重ねると、再び露伴にくちづけた。両腕が背中にまわるのを感じて、気分は更に盛り上がっていく。生徒と校医という、 お互いの立場を忘れてしまいそうになる。 「そういえば、さ……あんたの返事、まだ聞いてなかった」 「何の返事だ」 「さっき、あんたのこと好きだって言っただろ」 「ああ……」 かすかに熱い息をつきながら、露伴は仗助の頬に触れた。目を細めて唇の端を上げるその表情に、心が乱される。 「お前がもっと、僕の欲しいものをくれたら答えてやるよ」 具体的ではない言葉だったが、この状況で思い浮かぶものといえばひとつしかなかった。 しかし性の経験が乏しい、というより今まで他人の身体にここまで深く触れたことがない 仗助は、こんな自分が露伴の欲しがっているものを与えられるのか不安だった。手順も何もかも、曖昧なイメージはあっても実際にはどういう結果になるのか。 ずっと思い描いていた、甘く淫らなシチュエーション。そんな中で、期待に応えられる自信が持てずに腰が引けている情けない自分。これで失望されてしまったら、もうこんな チャンスは巡ってこないかもしれない。こちらを見る眼差しが期待から失望に変わるのを、想像するだけで怖かった。 「どうした、そんな顔して」 「俺、童貞なんだ」 「ん?」 「だからその、ここまでしといてどうすればいいか全然分かんねえ。あんたを気持ち良くさせたい、俺を好きになってほしい。それなのに……」 ぎゅっと目を閉じて、露伴に覆い被さったまま震えた。とっくに気付かれているだろうが、未経験であることも口に出してしまった。慣れているはずの露伴には馬鹿にされ そうだが、経験のある振りをして抱けるほど自分は器用な男ではない。 「仗助、いいことを教えてやる」 「え……?」 「僕が誰かとキスしたのは、今日が初めてだ。こうして抱き合うことも」 穏やかな表情で語られた事実に、仗助は衝撃を受けた。 そう言われても信じられない。あんなに意味深な言葉や態度で挑発してきて、誘うような調子で唇に触れてきて、 そんな露伴は経験が豊富だと思い込んでいたのだ。仗助と密着しているこの身体が、まだ誰のものでもないと考えると心臓が落ち着かなくなった。 露伴は仗助の頭を片手で抱えると、胸元に引き寄せる。薄いシャツ越しに、心臓の音が伝わってきそうだ。耳のそばで露伴の息遣いが聞こえる。 「あんたとこうしてるだけで俺、すげえ幸せ……気持ちいいし、温かいし」 まるで母親に甘える、小さな子供になった気分だった。露伴の胸は当然平らで、視線をずらせば勃起した性器がある。自分と同じ男の身体なのに、こんなにも心地良い。 「こうしているだけで、いいのか?」 そんな問いかけに、仗助は顔を上げて露伴と視線を合わせた。何かを求めているような目に、どきっとした。 「僕は、これだけじゃ足りないぞ。何のためにここまで脱いだと思ってるんだ」 「ろ、はん……?」 「検温してみるか、僕の中のほうも」 囁くような声で言うと露伴は自らの指を舐めて濡らし、足を少し開いて後ろのほうに指を滑らせる。校医の露伴が言うと笑えない陳腐な冗談だった。こんな生々しい痴態を晒しておいて、後から本気じゃ なかったとは言わないだろうが。初めてだという先ほどの主張の真実味がますます薄れる。 ここからでは手の動きしか分からないが、後ろの穴に触れてそこを解そうとしているのか。 すでにこれは露伴の自慰にしか見えなくなり、仗助は間近で眺めながら息を荒げた。身を起こし、露伴に跨りながら窮屈な下着を脱ごうとした途端に昼休みの終わりを告げる チャイムが鳴った。あまりにも酷いタイミングだ。まさかこんな展開になるとは思っていなかったので、放課後まで待てなかった自分を恨んだ。 「残念だな、時間切れだ」 「い、いや、せっかくいいところだったのによ……せめてもうちょっとだけ」 「サボったらここには出入り禁止にするぞ、東方」 突然呼び方を素っ気ないものに変えた露伴に、仗助は肩を落とした。しかしこんなに厳しい言い方をしていながらも、シャツ1枚という卑猥な格好で寝転がっているのだ。 さっさと教室に戻れというのは残酷ではないだろうか。 「今日の授業が終わって暇があったら、また来いよ」 急いで制服を身に着けていると、背後から優しい声で言われて振り返る。枕に頬を埋めてこちらを見ている露伴は、まるで事後のような気だるい雰囲気をにじませていた。 「いいのか……?」 「ああ、待っててやるよ」 「その格好で!?」 「何言ってんだ、バカ」 軽いやりとりの後で露伴はようやく身体を起こして、ベッドの端に腰掛けた。 「それにお前の告白の返事も、まだ聞かせてないしな」 「な、何か緊張すんだけど……」 「心配する前に、早く教室行けよ」 まだ先ほどまでの余韻を胸に残しつつ、仗助は露伴に挨拶をして保健室を出た。 早足で教室に向かいながら、放課後までの約3時間近くを全て飛び越してあの保健室に行きたいという無謀な願いで頭がいっぱいになっていた。 今にも弾けてしまいそうな甘酸っぱい感情、きっと大人には分からない。 |