星とアイスとチョコレート





何とかミルキーウェイという、正式名称は覚えていないがそういう感じの名前が付けられたカラフルなアイスクリームを、隣の大柄な男が舐めている。
めったに拝めないミスマッチな組み合わせから目が離せない。仗助は自分が頼んだシンプルなバニラアイスのコーン部分を握りながら、男の挙動を眺めた。

「何だ、仗助」
「い、いや……何て言うか、承太郎さんでもそういうの食うんだなって思いまして」

しかも小さな星型のホワイトチョコがトッピングされたそれを。真っ昼間から白づくめの威圧感漂うでかい男が、やけにロマンチックなアイスクリームの名前を店員に告げる姿を、仗助は隣でしっかりと見ていた。 今月のオススメフレーバーと書かれていたので興味を引いたのか、それとも単にその星部分が気に入ったのか、未だに謎のままだ。
いい加減、承太郎に星といえばヒトデと結び付けるこの思考回路を何とかしたい。
前に海へ連れていかれ……ではなくふたりで行った時、雰囲気が嫌でも盛り上がる夕焼け空の下で、このヒトデは機嫌が悪いようだとか電波なことを延々と聞かされたので、多分そのせいもある。 正直ヒトデよりもこちらの機嫌を気にしてほしかったが、その辺に関してはもう諦めている。ジョセフが漏らしていた、承太郎とその妻の不仲説も納得してしまうほどに。
私とヒトデのどっちが大事なの、と決断を迫られても『もちろんお前だ』とは即答せず、余計に波風を立てる承太郎を想像した。いくら何でもそこまで酷い男ではないと信じたいが。

「娘が途中で飽きた残りを、おれが代わりによく食っていたからな」
「ああ、なるほど。てっきり意外に甘党なのかなと」
「そういうわけじゃねえが、疲れた時は欲しくなる。身体がな」

微妙に意味深な台詞を呟き、承太郎は再びアイスクリームに視線を落とした。
店内ではレジの順番待ちをしている女子のグループが、珍しいものを見るような視線をちらちらと向けてくる。 この町ではすでに承太郎は有名人になっている上、まさかこんなところでアイスクリームを食べているとは思わなかっただろう。見た目のイメージ的に甘いものより、酒や煙草のほうがしっくりくる男だからだ。
この店は億泰の行きつけで、月曜の朝は必ず立ち寄ってお気に入りのアイスクリームを舐めながら登校する。そんな億泰を見ているうちに仗助は自分も食べたくなり、先週とうとう月曜朝のアイスクリームに手を出してしまった。 他の店と比べると値段は少し高めだが、種類も豊富で味は文句のつけようがない。財布に余裕があるわけでもないのに、すっかりはまった。これは極めて危険な状態だ。 億泰ほど月曜に憂鬱を感じていなかった仗助も、美味いものを食べると気分が上がるという気持ちを改めて理解した。
そして今日、何の予定もない日曜の昼間に家を出てここに来た。明日の朝も億泰に付き合って食べる予定なのだが、小遣いが入ったばかりなので気が大きくなったのだ。
店の前に立っていた先客が承太郎で、意外な場所で憧れの人に会えたのが嬉しかった。
このチャンスを逃すまいと迷わず声をかけ、こうして一緒にアイスクリームを食べている。
もしかすると承太郎は、アメリカに残してきた幼い娘との日々を思い出してこの店に来たのかもしれない。

「お前がいてくれて良かった」
「……ええっ!?」

突然の告白に仗助は固まった。誰が聞いているかも分からない場所での破壊力抜群の一言で、かなり動揺している。持っているアイスクリームを床に落としそうになった。

「さすがにひとりだと、入りにくいからな」
「そ、そっちのほうっスか」

夢の世界は、ほぼ一瞬で終わった。よこしまな期待をしすぎた自分が情けない。
今の承太郎の舌や唇は甘いだろうなと、口には出せない妄想をしながら仗助は真っ白なバニラアイスの残りを味わった。




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2012/3/28