噂の真相





露伴に彼女がいるらしいという話を、つい先ほど康一から聞いてかなり驚いた。幼馴染の鈴美は別として、あんな個性的すぎる男に寄り添える女をなかなか想像できないからだ。
一緒にいるところを目撃したわけではないが、彼女らしき人物が頻繁に露伴の家に出入りしているという。それだけでも充分に怪しい。
どんな女なのか見てみたい。そんな好奇心に負けて放課後、露伴の家の近くで張り込みを開始した。直接露伴本人に聞くのが早いだろうが、仗助が相手だと尚更素直に教えてくれそうもない。
途中で通りすがりの裕也に声をかけられたが、まさかストーカーのような行為をしているとは言えずにごまかすのに必死だった。そして数十分後、開いた玄関のドアから出てきた人物を見て思わず目がそちらに釘付けになった。 踵のあるブーツのせいもあるだろうが、とにかく背の高い女だった。ゆるく巻いた茶色の長い髪と、遠くからでも分かる濃い化粧。あんな風貌の女がこの町を歩いていれば、嫌でも目立って噂になる。
女はドアに鍵をかけるとそれをジーンズのポケットに突っ込み、車庫へと向かって行く。それを見た仗助はごくりと唾を飲み込んだ。露伴の家の鍵まで持っているとは、相当深い関係に違いない。しかも車まで共有しているのか。
別に露伴に女がいてもおかしくない年齢で、あれだけの知名度や稼ぎがあれば向こうから寄ってきて選び放題だろう。
しかし何故こんなに複雑な気分になるのか、自分でもよく分からない。


***


「ぼくに彼女だって?」

翌日、雑誌を買うために入った本屋で遭遇した露伴にさりげなく彼女の件を尋ねてみると、思い切り不機嫌そうに眉を寄せられた。本当は見なかった振りをしようと思ったのだが、あの時目撃した女の印象があまりにも強烈すぎたので我慢できなかったのだ。

「露伴の家から出てくるのを偶然見たんだよ、すげえ派手な女が」
「え、ああ……あれは、そういうのじゃない」
「あんたんちの鍵持ってたみてえだし、付き合ってるどころか同棲してんじゃねえのかよ」
「違うって言ってるだろ、しつこいぞ!」
「どうしても気になるんだよ!」

仗助に背を向けようとした露伴の腕を掴み、強引に引き寄せる。周囲の客や店員が一斉にこちらに注目して、我に返ると恥ずかしくなった。そんな仗助を露伴は、にやにやと笑いながら顔を覗き込んでくる。

「いいぜ、そこまで言うならぼくの家に来いよ。紹介してやる」

今度は逆に腕を引っ張られながらふたりで本屋を出た。露伴の口から改めて恋人として例の女を紹介されたら、冷静でいられる自信がない。


***


リビングでしばらく待っていると、再びあの派手な女が仗助の前に姿を見せた。艶のある黒いショートパンツと、少し肌が透けたストッキングに包まれた足に、つい目を奪われる。
女は露伴を待たずに仗助の座るソファに近づき、すぐ隣に腰を下ろした。
濃厚な香水の匂いをまとい、女は無言のまま仗助をじっと見つめてくる。まるで良く知っている誰かに似た、薄い笑みを浮かべながら。

「あのー、露伴は?」
「……」
「いや、そんなに近づかれると、おれ……」

迫ってくる女に圧倒されてさりげなく身を引いたが、その分更に距離を詰められる。視線を逸らした先にあった太腿は、女にしては固く引き締まっているように見えた。 間近で見ると確実に、美人というよりは化粧が濃いという印象のほうが強い。
それでも妙に惹きつけられる。知り合いの彼女だと分かっていても拒絶できなかった。

「興奮するのか?」
「えっ……」

初めて聞いた女の声は想像よりも遥かに低く、それどころかまさにこれは。
茶髪はウイッグだったようで、それを持ち上げて外すと現れたのは襟足を刈り上げた独特の髪型。さすがにいつものヘアバンドはしていないが。

「露伴!?」
「何だ、ようやく気付いたのか。鈍いな」

露伴の勝ち誇った表情を前に呆然とした。混乱した脳内を整理しながら仗助は、ずっと露伴の恋人だと思い込んでいた人物が、女装した露伴自身だったとようやく理解した。
自分の漫画に出している女性キャラクターの気持ちを味わうためのもので、趣味ではないという。そう言う割には嬉々として振る舞っているのがおかしい。
とりあえず露伴の彼女説は消えたが、問題はまだ残っていた。ブレスレットをつけた手が仗助の股間に伸びてきて、指先で軽く引っかかれる。うっかり反応して息を漏らしてしまい、露伴が愉快そうに目を細めた。

「お前さっき、女装したぼくに迫られて焦ってたよな」
「あんたの彼女だと思っていたから、あれ以上は色々まずいっていうか」
「それだけか?」

鮮やかな赤に塗られた唇が、挑発的に囁きかけてくる。チェック柄のシャツを押し上げる胸の部分が膨らんでいるのは、下着に何か詰めているせいだろう。漫画のためとはいえここまで拘っているとは恐れ入る。
座った仗助の太腿を跨ぐ形で、露伴がソファに膝をつく。何かを企んでいるに違いない。

「ぼくのここ、外してくれないか。きついんだ」

指で示された箇所に視線を落とすと、ショートパンツの股間のあたりが不自然に盛り上がっていた。早く、と急かされて震える手で留め具を外してファスナーを下げていく。すると露伴の性器が、ストッキングと小さめの下着を突き上げるように勃起していた。

「ん……楽になった」

わざわざ仗助にやらせるところが憎らしい。股間が締め付けから解放されて安心したのか、露伴が軽く息をついた。こんな近い距離で乱れた姿を見せつけられて、動揺を隠しきれない。露伴の尻を撫でる振りをして、性器を覆っている布地を下着ごと下ろしてしまう。

「このほうがずっと楽じゃねえの? 女の格好したまま勃ったもの晒して、本当に変態だな」
「ぼくは、ここまで脱がせろなんて頼んでないぞ……!」

亀頭から滴り落ちる先走りのせいで、露伴の怒りも説得力が半減だ。

「おれのは触っといて、自分のを見られるのは嫌なのかよ」

仗助も同じようにベルトを外し、完全に勃起した性器を露伴の前に晒す。熱く脈打つそこに露伴の腰を落とそうとしたが、さすがに本人に阻まれる。

「入れたいなら準備させろよ、これだから落ち着きのないガキは……」

潤んだ目を伏せながら、露伴は指に唾液を絡めて濡らすと自分で後ろの穴をいじって解す。その様子だけで充分に自慰のネタになるが、繋がる瞬間まで必死で堪えた。


***


首に両腕を絡ませて仗助に密着した露伴が、息を乱しながら腰を上下させる。
じゅぼじゅぼといやらしい音が大きく響いて、仗助の鼓膜を犯した。動き続ける露伴の身体は汗ばみ、背中を撫でるとすでにシャツが湿っている。
仗助の足元に脱ぎ捨てられたショートパンツやストッキングの存在が、やけに生々しい。

「露伴って、さ……いつもは愛想悪いくせに、セックスの時は健気っつーか素直だよな」
「そん、な、ぼくは普段通りに」
「全然違うだろ、ほら」

露伴の腰を掴んで突き上げると、反らした喉から今まで聞いたことのない淫らな声が上がった。こんな姿を夜中にベッドの中で思い出せば、興奮して眠れなくなりそうだ。
唇を重ねてきた露伴に搾り取られた仗助は、相手が女装しているとはいえ男でなければ危険な量の精液をたっぷりと奥へと注ぎ込んだ。




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2012/9/16