放課後の誘惑 放課後に通りかかった教室の中に、未起隆の姿を見つけた。 1番前の窓際の席に座り、ひとりで何かを書いているようだ。今は用事もなく、まっすぐに帰ろうとしていたのでちょうど良い。そっと教室の中に入り、未起隆の席に 近付いた。 「お前、帰んねえの?」 「あ、仗助さん……これ終わったら帰ります」 こちらの存在に気付いて顔を上げた未起隆の手元を覗き込むと、日直だったのか書いていたのは日誌だった。 欠席者の名前や今日1日の感想など、内容は事務的なものばかりだ。これならあまり時間もかからずに、すぐに書き終えるだろう。 終わったら一緒に帰るか、と言いながら目についたのは机の端に置いてあるペットボトルだった。 ラベルは剥がされているが、半分ほど残っている中身は無色透明の液体で、たぶん水か何かだ。 最後の授業が体育だったせいで何となく喉が渇いていたので、うっかりそれに手を伸ばしてしまった。 「これ一口貰うぜ」 「……えっ、あ、それはダメです!」 ペットボトルを手に取って口を付けた仗助を見た未起隆は、珍しく慌てた顔で席を立った。日誌の上を動いていた青いシャープペンが床に転がり落ちていく。 「何だよ、ちょっとくらい構わねえだろ」 「身体、何ともないですか?」 「えっ」 「それは地球人向けの飲み物ではありません」 真顔な未起隆の口から恐ろしい言葉を聞いた途端、じわじわと身体の奥が熱く痺れていくのを感じた。気のせいかと思ったがこの身体は確かに言うことを聞かなくなっている。 痛みはなく、それどころか初めて感じる妙な感覚に戸惑った。もはや立っていられずに床に両膝をつき、呼吸を荒げる。 未起隆はあの水のようなものを半分以上飲んでも、何も感じなかったのだろうか。本人が公言している通り、地球の人間ではないので普通に飲めているのかもしれない。 「立てますか?」 「……いや、無理」 「とにかく保健室に行きましょう」 そう言って未起隆が肩に触れてきた。衣服越しでもやけに生々しく伝わってくる手の感覚と体温。信じられないほど敏感になっている身体に、それらが奥深くまで染み込んで 理性を奪っていく。 頭がくらくらして、まともに物を考えられない。心配そうに顔を覗き込んでくる未起隆と視線が重なった瞬間、自分が自分ではなくなった。 「無理だって、言ってんだろ……」 人間離れした尖った耳にかすれた声で囁くと、仗助は未起隆の唇を奪った。冷たい唇は、重ねているうちにこちらの温もりが伝わったのか同じ温度になっていく。 限界まで喉が渇いていた時にようやく得られた水のように、くちづけの感覚は胸を潤した。 未起隆が抵抗しないのをいいことに、薄く開いていたその唇に舌を差し込む。仗助が舌を動かすと、未起隆もやがてそれに応えた。 普段の健気な性格からは想像できないほど巧みな動きに、身も心も委ねていた。 「こうなったのは、全部私のせいです」 「責任感じてんなら、俺のこともっと気持ち良くしてくれよ。我慢できねえ」 「仗助さんにそんな、いかがわしいことはできません」 「俺、お前のこと結構気に入ってんだぜ……激しくしても構わねえからよ」 乱れた気持ちですっかり浮かれた頭で、仗助は未起隆に身体を擦り寄せた。人の温もりがたまらない。ここが放課後の教室だということも忘れて、未起隆を誘う。 友達だと思っていた未起隆に対して、こんなに淫らな気分になったことはない。やはりあの正体不明な水のせいだ。制御できない熱さに焦がされながら顔を近付け、 再び唇を重ねた。 ズボンと下着だけを脱ぎ、擦り合わせている性器から濡れた音がした。もはやどちらのものか分からない先走りが、とろとろと溢れて止まらない。 並んだ机や椅子の間で、自分に覆い被さっている未起隆の動きに合わせて、仗助も腰を揺らす。強い快楽は得られないが、じれったさでどうにかなりそうだった。 「何だかんだ言って、お前もその気になってんじゃねえか」 「……すみません」 「謝るなよ、誘ったのは俺だぜ」 こんな行為の最中でも未起隆は理性を保っているのか、静かな目でこちらを見つめている。しかしそれが時々、戸惑うように揺れる様子に興奮した。いつも優しくて、 健気な未起隆を自身の欲望でここまで追い詰めたという快感。まだ触れられてもいない尻の窄まりが、ひくりと動いた。 「なあ、最後までしねえの?」 「人が……来るかもしれないです」 「ここまでやっといて、今更じゃねえの……っ、あ」 勃起している性器が限界まで張り詰め、いつ射精してもおかしくない状態になった。仗助は小さく声を上げながら背中を反らした。未起隆にしがみつくと身体が密着して、 互いの性器も更に強く擦れる。未起隆の乱れた息遣いが耳に触れ、更に気分が高まっていく。 「ずっと、仗助さんに隠していたことがあります」 「ん?」 「あなたが好きです……鉄塔で私を助けに来てくれた時から」 かすかに震えるような声で、未起隆がそう告げてきた。一瞬だけ言葉を失ったが、快感とは違う甘い痺れが胸に広がっていく。まっすぐに見つめられ、逸らすことができない。 仗助の返事を待たずに、未起隆は今までより激しく腰を動かし始めた。敏感になっていた性器は強い刺激を与えられ、堪えられないまま仗助は未起隆と共に射精した。 翌朝、登校中に未起隆の姿を見つけた。同じ制服を着た生徒達の群れの中でも、その長い髪や独特の雰囲気ですぐに分かる。 「よお、未起隆」 「おはようございます……身体のほうは、もう大丈夫ですか?」 「ああ、お前が俺を家まで連れて行ってくれたんだろ?」 そう問いかけると、未起隆は黙って微笑んだ。 目が覚めると、見慣れた自分の部屋に居た。確か未起隆の水を飲んでしまい、身体がおかしくなったのは覚えている。 しかしそれ以降の記憶が全くなかった。 母親から後で聞いた話では髪の長い高校生が、学校で倒れた仗助をここまで連れてきてくれたのだと教えられた。 未起隆が家まで運んでくれたのだと、すぐに分かった。 「ところでよ……俺、お前に何か変なことしてないよな?」 「何の話ですか?」 「よく分かんねえけど、そんな気がするんだよなあ」 「仗助さんはずっと、気を失っていましたよ」 正面から見つめられて真顔で言われると、納得するしかない。それでも多少の違和感があるのは何故だろう。絶対に何かがあるはずだと思ってしまう。 その後、未起隆が目を伏せて俯いた理由が分からないまま仗助は学校に向かって歩いた。 |