溺れる密室





ジョセフが泊まっているホテルの部屋に足を踏み入れるのは、今日が初めてだった。
電話で呼ばれて訪れた後は、肩を抱かれながらベッドに連れ込まれた。ふたりきりで会う理由はそれしかないのだから、当然の流れとして受け入れている。
愛情の絡まない性行為は胸を熱く満たすことなく、強引に引き出された快楽と痛みだけをこの身体に刻んでいくものだと思った。

「ねえー、露伴君ってさあ」
「何ですか」
「俺とセックスする時って、仗助のこと考えてたりすんの?」
「……言いたくありません」
「気持ちは分かるけどさあ、そういうのってなんか、妬けるよねえ……ふふ」

まるで自分の存在を主張するかのように、ジョセフは露伴の目を見つめながら舌先で乳首を舐める。 顔の造りは仗助と似ているのに愛撫の仕方は全く違っていた。仗助の不器用なものとは違い、どういうふうにすれば相手が快楽を得るのか心得ているような。
乳首に軽く歯を立てられた瞬間、露伴は我慢できずに声を上げてしまった。相手は仗助ではなく、良く似た父親なのに。 それを頭では理解しているが、この身体は言うことを聞かずに反応してしまう。

「気持ちいいの? 仗助じゃないのに?」
「今のは、違う」
「違わないだろ、はっきり聴こえたぜ」

ジョセフは最中に何度も仗助の名前を出しては、露伴の胸を鋭く抉っていく。こうして抱かれているのは、全て仗助を守るためだ。他に理由はない。あるわけがなかった。
しかしこれは守るどころか、裏切っているのではないかとも思う。 もっと露伴と一緒に過ごして、気持ちを確かめてから抱きたいと言った仗助を、じれったいほど純粋なその気持ちを。
仗助と繋がる痛みも知らないまま、他の男とこういう関係になってしまった。 自分は女ではない上に、多少のことでは傷付くような人間でもないので平気だと思っていたが、現実は想像以上に厳しかった。
言葉では表せない様々な感情が入り混じり、涙がにじむのを止められない。胸の痛みをこらえながら、露伴はまるで縋るようにジョセフの頭を腕に抱いて更に密着した。 ジョセフの身体も匂いも、何もかもが近くなる。熱い息が胸に触れ、露伴は息を乱す。
無意識に腰を揺らした自分が浅ましく思えて、今度仗助と顔を合わせるのがますます辛くなっていく。 仗助以外の男の愛撫に身を委ねて感じてしまってからはもう、後戻りはできないのだと露伴は遠くなる意識の中で思った。
やがてジョセフは露伴をゆっくりとベッドに押し倒し、両足を大きく開かせた。いつの間にか先走りを浮かべ猛った性器の亀頭が、尻の窄まりに押し当てられる。 充分に指で解されているとはいえ、太く硬いものが押し込まれる違和感には未だに慣れない。
ひたすら痛みに耐えているうちに、性器を根元まで飲み込んでいた。ジョセフは口元に笑いを浮かべながら腰を引き、少し間を置いてから1度強く突き上げる。 不意打ちで腸壁を擦られた衝撃で、露伴は短く声を上げて背中を逸らした。

「……これ以上は、辛いです」
「やめてほしいの? 俺はやめたくないな……だって露伴君の身体、すごい反応してるから」
「もう、本当に……だめになる」

仗助よりも逞しい身体つきをしている若いジョセフは、最中に何度体位を変えても全く疲労した様子を見せない。揺さぶられているだけの露伴のほうが、何倍も気力を奪い 取られているような気がする。こうして身体を重ねる度に募る罪悪感のせいだ。
何も考えずに流されてしまえば楽だろうが、決してそうはならない。 ジョセフと目を合わせていると、どうしても仗助の存在を思い出して強く意識する。息が止まりそうなほど、苦しい。
せめて仗助と一線を越えた後だったら、これほど苦しまずに済んだだろうか。
唇を重ねて肌に触れる以上のことを、仗助はしようとしなかった。この身体に欲情していないのかと思い苦い気分にもなったが、照れたような表情で抱き寄せられた時の あの温もりは、そんな不安をすぐに忘れさせた。

「やっぱり、俺の思っていたとおりだった」

そんな言葉と共に、晒していた性器を握られて露伴は我に返った。ジョセフがこちらを見下ろしながら、亀頭の割れ目を指先で軽く引っかくように刺激を与えてくる。 びくびくと震えたそこから、透明な雫が溢れてきた。

「君が仗助のことを考えてる時の顔って、すぐに分かるんだよな」
「気のせいじゃないですか」
「へえー、違うの?」

ジョセフは笑顔のまま、指先で軽く引っかくような動きを強く抉るものに変えた。危うく達してしまいそうになるのを、必死で堪えた。射精する瞬間は前にも見られている ので今更だったが、簡単に思い通りになるのは不愉快だ。
鋭い視線を向けても、ジョセフは怯むどころかますます愉快そうに目を細めてみせる。

「……露伴」

今まで聞いたことのない恐ろしいほど優しい囁き声に、驚きで身体を竦ませてしまう。そうしているうちに強く抱き締められ、耳や首筋、そして頬に唇を押し当てられた。
少しずつ、心が乱れてくるのを感じる。自分が本当に弱いのはこういう抱かれ方なのだと、改めて思い知らされた。
1度崩れてしまったものは、そう簡単には戻らない。ジョセフが再び腰を動かし、露伴の腸壁を何度も擦り上げる。その激しさに我を忘れて声を上げながら、逞しい背中にしがみついた。
身体だけではなく心まで犯されながらも与えられる快楽に溺れ、抗うことはできなかった。




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2009/12/1