消えない傷 あいつとお互いのアクセサリーを交換する夢を見た。 僕のイヤリングをあいつが付けて、あいつのピアスを僕が付ける。 もちろん僕の耳にはピアスの穴はないので、あいつの手で穴をあけることになった。 痛そうだとか、怖そうだとか、そんなことは思わなかった。 あいつの指が僕の耳に触れた時、ぞくぞくと不思議な痺れを感じた。 どこか熱く、そして甘い。これから血を流すことになるというのに、僕はこれから行われることに対して、 抑えられないほど興奮していたのだ。 この肌の下にある血肉が、あいつの手で貫かれる。耳に小さな穴をあけられるだけなのに、大げさかもしれない。 それでも僕は、その瞬間の痛みを永遠にこの胸に刻みつけておく。 あいつににとっては一生の内の、ほんの数秒にも満たない出来事として、あっけなく過ぎ去って忘れていくのだろう。 この先何年か経ってあいつが自分の家庭を持つ日が来れば、僕とのこと自体を若かったころのささいな過ちとして、 記憶の奥底に沈めるのだと思う。 あいつが僕に向けてくる照れたような笑顔も、じれったいほど優しい言葉も、僕は忘れずにすぐに思い出せるようにしておく。 それが僕にできる、せめてもの……。 「なあ、本当にいいのか? やめるなら今のうちだぜ」 「うるさいんだよお前は、さっさとやれよスカタン」 「綺麗な肌してんのにな、穴あけちまうなんてもったいねえ……」 こいつのピアスを僕が付けるためにふたりで決めたというのに、わざわざ決意を揺らすことを言うのは何故だ。 触れられていた耳たぶに、濡れた舌が重なる。僕は我慢できずに息を乱してしまう。 湿った音が生々しく僕の耳の奥にまで響いた。力の入らなくなった身体が、あいつの両腕に支えられる。この身体に馴染んだ 強さで。 「っ……はやく、僕の耳に穴を」 乱れた呼吸に気付かれないように、僕は訴えた。するとあいつは僕の耳に軽く歯を立てた。わずかな痛みが走る。 「俺の名前、呼んでくれよ」 余裕のない、切実ささえ感じさせるような囁きだった。 「あんたに名前呼ばれるの、好きなんだよ」 「おかしな奴だな、そんなことで喜ぶなんて」 「単純だから俺……最近ずっと、そう思う」 気取った匂いを感じない、まっすぐな言葉が僕の意識をゆったりと溶かしていく。そんな僕も単純な人間なのかもしれない。 「じょう、すけ……!」 視線を合わせないまま呼びかける。するとあいつは僕の身体を何も言わずに抱き締めた。 多分あいつは一生気付かない。その何気ない言葉や、痛いほどまっすぐな優しさ、そしてその他の誰のものでもない温もりが、 僕の胸の中に深い傷を刻んでいることを。 それは僕があいつのことを想い続ける限りは決して消えることなく、次々と新しい傷が生まれ、そこからは血が流れていく。 乾くことなく溢れ続ける。 僕はその傷を痛みごと抱えて生きていく。 お前のことが好きなんだ。 やがて僕の片耳には小さな穴があいた。 あいつは自分の耳に自分で穴をあけたらしく、意外にも手慣れていた。耳に触れてみると、あいつがあけた穴が確かに存在している。 これが夢だとも知らずに僕は、あいつに貫かれた瞬間の鋭い痛みに、気が狂うほどの想いと共に浸り続けた。 |