このまま 露伴が仕事で使う道具を買いに行くというので、俺もついて行った。 正直、ペン先とかトーンとか言われても俺にはよく分からねえけど、ただ露伴と一緒に居たかった。 荷物持ちくらいにならなれると思っていたものの、露伴が買ったものは軽そうな紙袋ひとつでおさまってしまった。 結局俺の出番は来ないまま、露伴と帰り道を歩いていく。 少しずつ夜の気配が近付いている外の空気は、更に冷えつつあった。 露伴は片手に紙袋を抱えながら、もう片方の手をコートのポケットに入れている。 吐き出す息は白く、ふわりとしたものに形を変えて頭上へのぼっていく。 「なあ露伴、そっちの手……出して」 俺はそう言いながら、コートのポケットに入っている露伴の手を指差すと、横目でちらりと見られた後でその眉間に皺が寄った。 「どうせまた、くだらないことでも考えているんだろう」 「さあ、どうだろうな」 「もしくだらないことなら……分かっているだろうな?」 露伴の目に一瞬だけ、どこか危険な光が宿る。それでも俺は、自分の考えを曲げようとは思わなかった。露伴を相手に、ちょっとしたことで引っ込めてしまうような 中途半端な決意なんてものは、最初から無意味なものに等しい。 「ああ、分かってるからさ。とにかく出してくれよ」 露伴は何も言わずにコートの中の手を出した。俺がその手をそっと握ると、露伴の身体がびくりと震える。コートの布地の中で温められていた手からは、心地良い温もりを 感じた。 「せっかく一緒に居るんだしよ、こっちのほうがあったかくねえ?」 俺がそう言うと、露伴は面食らった顔をして深くため息をついた。呆れているようにも見える。 「やっぱり、くだらないな」 ぼそっと小さく呟きながらも、露伴は俺の手を離そうとしない。そんなひねくれ具合も露伴らしいと思っていると、俺は自分の鞄に手袋が入っていたことを思い出した。 「俺、実は手袋持ってんだけど。本当に我慢できそうになかったら、そっち使うか?」 「何の我慢だ? 僕には良く分からんが、状況的にそうさせているのはお前のほうじゃないのか?」 確かに露伴の言うとおり、俺が握った手を離さない限りはずっとこのままだ。何も言葉を返せずにいると、露伴はゆっくりと白い息を吐き出しながら暗くなりかけている 空を見上げた。 「……このままでいい」 そう言った露伴の、俺の手を握り返す力が少しだけ強くなった。 涙さえ凍りつきそうな寒空の下でも、こうして露伴と繋がっている手だけは、とろけそうな熱さを感じた。 |