Melting 今の願いはひとつだけ。 いつか訪れる別れの時まで、この想いを隠し通したい。 大きく固い承太郎の手のひらがシャツの上から胸に触れてきて、仗助は熱い息を吐いた。 目を閉じても逸らしても、こんなに乱れている自分を隠すこともできない。すぐ向かい側で、全て見られているのだから。 できるのならこのまま身を任せたい。座り込んだベッドの上でふたりきりという、どうなってもおかしくない最高のシチュエーションの中で。 性別や血の繋がりなど、ふたりの関係に一切の壁がなければ。 いけないと分かっていても、押し返そうとしている腕に力が入らない。それどころか身体も心もあっさりと崩れてしまいそうで、しがみつきたくなる。 胸元を這う指は乳首のあたりを探り、そこを爪先で軽く引っ掻かれるともう堪え切れずに短い声が出てしまった。 「さっさと認めちまえよ、仗助」 「なに、を」 「俺に惚れてるんだろう」 耳元でそう囁かれて動揺した。ストレートで傲慢な台詞だったが、この人に言われると弱い。惚れているのはごまかしようもない真実だからだ。 すでに心では自覚している。ただ、それを口に出さないだけで。 必要以上に関わらなければ、こうして強引に暴かれることもなかった。しかし結局それができずに、自分からこの部屋を訪れたせいで窮地に立たされている。 会うたびに気持ちを抑えて、何でもない振りをして接しているつもりだった。 見え見えの嘘として、歪んだ形で承太郎に伝わっているとも知らずに。 「もう俺、嫌だ……こんな……」 素直に反応している身体も、本音を引き出そうとして動く指も、嘘をつくのが下手な自分自身も全て。 「そんなに嫌なら、お前のスタンドで俺を殴って拒めばいい。初めて会った時みてえにな」 「あんたを殴るなんて、できねえ」 初対面の頃とは違う。一緒に居るだけで誇り高い気持ちになれる、心の底から尊敬できる存在。そして愛したい、愛されたいと思う存在である承太郎を攻撃することは 今では考えられない。そう思いながら仗助は目を伏せる。 「じゃあ、俺の好きなようにさせてもらうぜ。いいんだな?」 指の動きが更に執拗になる。シャツ越しでもはっきりと分かるくらい固くなった乳首を、摘み上げたり円を描くように愛撫してきて止まらない。 承太郎には自分で築き上げた家族が居る。それを知っているからこそ、この想いを伝えるわけにはいかなかった。口を滑らせた仗助のせいで、承太郎は親戚の男と他人には 言えない関係になり、それがきっかけで築いたものが壊れてしまったら。取り返しのつかない事態になってからでは遅い。 親に養ってもらっている高校生とは、背負っているものの重さが違う。 「……承太郎さんには、幸せになってもらいたい」 快感に震えた声で呟いた仗助の一言に、承太郎の動きが止まった。 「何の話だ、急に」 「もしあんたのこと好きだって認めちまったら、全部だめになる。承太郎さんの家族を壊して、何もかも……だから、俺は」 「こんな時にまで、俺の心配してやがるのかお前は」 最後まで仗助の話を聞かないまま、承太郎はどこか棘のある口調でそう言った。急にベッドに押し倒されて焦る。これで容易には逃れられなくなってしまった。 静かに牙を剥いて、獲物を捕らえようとする獰猛な獣。今の承太郎を表現するなら、まさにそんな雰囲気だった。美しい色の瞳を、これほど近くで見たのは初めてだ。 「やっぱり俺に惚れてるんだな」 「ちょ、待っ……今のは」 「待ても何も、さっきお前が自分で言ったんだろうが」 「あ……」 指摘された途端に全身から血の気が引いた。いくら身も心も追い詰められていたとはいえ、自分は本物の馬鹿だ。今までの努力が全て無駄になった。 「でも承太郎さんが、俺みてえなガキに本気になるなんて」 「お前、俺のことを勘違いしてるな」 「え?」 「俺は同じ男で、しかも親戚のお前をこうして押し倒すような、最低な野郎だぜ」 承太郎が一体何を考えて、こんな行為をしているのか分からない。ずっと家族と離れているので寂しくなったのか、それとも仗助に親戚以上の想いがあるのか。 どちらでも仗助は、承太郎を最低な人間だとは思わなかった。本当は、何かを考える余裕すらなくなるくらいに激しく抱かれて、身体の奥深くまで承太郎の熱さを感じたい。 こんな浅ましい自分に、承太郎を責める資格などあるわけがない。 仗助はある決意をして、一呼吸置いた後で口を開いた。 「もし、あんたの心に少しの迷いもないなら、このまま俺を抱いてください」 それまで表情ひとつ乱さずに仗助を愛撫していた承太郎が、この時初めて眉をひそめた。 「俺、こういうの初めてだけど、承太郎さんなら構わねえから……最後までしてほしい」 自分に覆い被さっている承太郎の肩を掴んで、仗助は真剣に訴える。こちらを射抜くような承太郎の視線に負けないように、まっすぐに見つめながら。 やがて承太郎は仗助から離れ、ベッドの端に腰掛けた。押し倒された体勢のまま、仗助はその広い背中をぼんやりと眺める。 「やっぱり、家族のことが引っかかってるんですね」 「さあ、どうだろうな」 承太郎が迷いを抱くとすれば間違いなく家族の存在だろうと思っていたので、意外な返答だった。 「……敵わねえな、お前には」 ここからではどんな表情で言っているのか、どういう意味なのかも見えてこない。静かな部屋の中で、沈黙だけが時間と共に流れていく。 このベッドの上で承太郎に引き出された快感や熱さは、今でも消えずに残っている。 まともな恋も、くちづけさえも知らなかったこの身体から。 |