何でもない振りをして





一緒にいた億泰達と別れた後、露伴とふたりきりになる。スケッチブックを肩から下げたまま隣を歩く露伴は、頑なに仗助のほうを見ようとしない。このまま別れるのは惜しい。仗助は何でもない振りをして、その指先に触れた。弾かれるように慌てて身を離した露伴が、ようやくこちらを向く。視線は鋭かったが。

「やっぱり俺って、あんたに嫌われてんのかな」
「今更それを確認してどうするんだ? 分かってるんだろう」

はっきりとは言わないが、おそらく露伴の感情がひっくり返ることはない。指先が触れただけであんなに激しく拒まれた。それでも期待してしまうのだ、町で会うと無視するどころか執拗に絡んでくる露伴に。
そのイヤリングどこで買ってんの、いつから一人暮らししてんの、寂しくなったりしねえの?
頭の中で会話のきっかけを色々練ってみても、素っ気なく返されそうだ。しかしそれを恐れていては、この気難しい男とは永遠に距離は縮まらない。何故これほど意地になっているのか謎だが、もう引き返せなかった。

「じゃあ、僕はここで」

ちらりと仗助を横目で見た後、露伴はこちらに背を向ける。当然だが別れを惜しむ様子はなかった。嫌いな奴とようやく離れられて、せいせいしたというところか。仗助は隣に露伴がいた証が消える前に、決意して踏み出す。

「俺、諦めてねえからな!」

仗助の叫びに、立ち止まった露伴が振り返った。呆れたと言わんばかりの表情で。

「お前、本当に頭の悪い奴だな。僕がこれだけ態度で示しているのに、全然懲りてないじゃないか」
「そっちこそ、俺が嫌いなら無視すればいいだろ」
「……お前が僕の前に現れなきゃ済む話なんだがな」

それは無理! と口に出す前に、露伴は早足で去って行った。同じ町に住んでいる限りは、例え望んでいなくても顔を合わせる可能性は充分にあるのだ。
触れた指先の温もりは、今でも消えていない。




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2011/9/30