写真 「承太郎さん、それって」 露伴が指差した先には、承太郎が予定を確かめるために開いた手帳の表紙。そこには学者というお堅い職業の大人の男には似つかわしくない、いかにも子供受けしそうなキャラクターのカラフルなシールが貼られている。 もちろん自分はアニメや漫画には何の偏見もなく、そういう類のフィギュアも数体持っている。それでも驚いたのは、承太郎のイメージからかけ離れていて意外すぎたからだ。 「ああ、目を離した隙に娘が貼ったんだ。どうやっても全然剥がれねえ、やれやれだぜ」 「きれいに剥がせる方法知ってますよ、やってみますか」 「いや、このままでいい」 ため息混じりにいかにも困っていますという表情で語っていたくせに、一転してあっさりと露伴の提案を跳ね返してきた。ただの惚気というか完全に親バカだ。 どうやっても剥がれないと言うが、貼られたばかりなら跡も残らず剥がれる可能性は充分にあった。もしかすると承太郎は最初から剥がすつもりはなく、こうして日本にいる間も手帳を取り出すたびにそのシールを眺めては娘を思い出し、頬を緩ませているのかもしれない。 更に妻子の写真まで挟んだ手帳の中に、不倫相手と会う約束の時間をメモしているのだ。酷すぎて本当に笑ってしまう。その手帳の中には全てが詰まっている。不器用な父親としての彼、そして最低な男としての彼が。 1度読んでみたい衝動が生まれたものの、例の写真を見た途端に何とも言えない気分になるのが嫌で思い留まった。いくら平気な振りをしてみても、承太郎との関係には確かに後ろめたさを感じているのだから。 帰国する直前に、ベッドの中で撮った露伴のいかがわしい写真でもこっそり挟んでやろうか。何も知らずに手帳を開いた時にどんな顔をするのか、あれこれ想像してしまう。 ここまで妻子への想いは強いのに何故、承太郎は露伴を抱くのだろう。生活にどこかストレスを感じていて、それを違うところで発散しているのか。年下の男相手に、父親として振る舞う必要のないこの町で。 |