CURIOUS/3





肩に傷を負った男は町の病院に運ばれ、手当てを受けた。
思っていたより傷は深くなかったが、肩に包帯を巻かれてしばらくは安静にしているように医者から忠告された。しかし男は、頑固にも自分は大丈夫だと言い張って仲間と共に病院 を出て、そのまま徒歩で宿に戻ったのだ。
普通の人間ではないとはいえ、見ているこちらは男の言葉を素直に受け取ることができない。承太郎だけではなく、後のふたりも同じ考えだと思う。
宿の部屋でふたりきりになった。ベッドの端に座った男の向かいに、承太郎も同じように腰を下ろす。

「本当に大丈夫なのか」
「なーに、俺のこと心配してくれんの?」

顔を覗き込みながらにやにやと笑う男に対して何も答えずにいると、男は急に真面目な表情になる。

「ホリィは日本で頑張ってんだ、俺がこのくらいの怪我で呑気に休んでるわけにはいかねえだろ」

日増しに容態が悪化してきているらしい、母親のことを思い出す。一刻でも早くDIOの館を見つけ出して、倒さなくてはならない。それは常に頭の中にある、最優先事項だった。
しかし、承太郎を庇って何者かに撃たれた瞬間、男の肩に広がった真っ赤な血が今でも忘れられなかった。ジョセフの面影が、この男に重なったことも。
男を撃った者の正体は、謎のままだ。DIOの手下かどうかすらも。あの時はそれを追うよりも、男を病院に連れていくほうを優先したからだ。
今までずっと、承太郎だけがこの男がジョセフだとは認めていなかった。ジョセフとはあまりにも違いすぎる何もかもが気に食わず、平然と思い出話をされると腹が立った。 そのはずだったが、こうしているとこれまでの憤りが嘘のように薄れていく。
お前は俺の可愛い孫。護ってやるのは当然。目の前で血を流しながら告げてきた男の言葉に、胸が締め付けられた。

「それに、こうしてお前も俺のそばに居てくれるし」
「……」
「こっち来てよ、もう変なことしないからさ」

優しい声で言われて一瞬ためらったが、肩の傷を思い出すと拒めなかった。もし嘘をついて襲ってきたとしても、今の身体ではそれほど無茶はできないはずだ。承太郎は立ち上がると、 男の隣に座った。
こうして近くで顔を見ると、ジョセフと同じ瞳の色に心が乱れて息を飲んだ。まずい、と思った自分を止められずに承太郎は身を乗り出し、男の唇を奪う。
軽く重ねたその唇の感触は、ジョセフのものとは違っていた。分かっていても、やめられない。ひたすら欲しいという気持ちは消えるどころか、大きくなり理性を壊す。
まるで何かを待つように薄く開いていた唇の隙間から、男の舌が入ってくる。絡ませて求め合っていると、それが何故か馴染んだものに思えてくるのが不思議だった。

「あれだけ嫌がってたのに、ずいぶん積極的じゃないの。変な気起こしちゃうよん」
「起こせばいいじゃねえか」
「お言葉に甘えて……って言いたいとこだけど、この傷じゃね」

男は苦笑して、承太郎の頬を撫でる。すでに嫌悪感はなくなっていた。
結局今夜は、同じベッドで眠ることになった。体格の良い男ふたりだと窮屈だったが、身体を寄せ合っていると何とかなりそうだ。
明かりを消して薄暗くなった部屋の中、男の体温がやけに生々しい。

「なあ承太郎、俺のこと好き?」
「さあ、な」
「素直に言ってくれるわけないって思ってたけどねえ」
「だったら聞くな、早く寝ろ」

小さな笑い声の後、しばらくすると寝息が聞こえてきた。繰り返し耳に届くそれを感じながら承太郎も目を閉じる。
この男がジョセフなら、今更口に出さなくても知っているはずだ。抱かれるたびに与えられる快楽に流されながら、愛してると囁いたことを。
朝に目が覚めた時、男は元の姿に戻っているだろうか。そんな都合の良い展開にはならないと思うが、もしこのままならこれから合流するはずの花京院にも、事情を最初から説明しなくてはならない。
解決策が見つからない今は、現実を受け入れて前に進んでいくしかない。この旅に、立ち止まって考える余裕などないのだから。




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2011/6/22