いとしすぎて 「なんて素敵な方……どこからいらっしゃったの?」 「日本から、大事な用があってな」 「もし良かったら、静かなお店で飲み直しません? もっとお話が聞きたいわ」 柔らかそうな肌を大胆に露出した格好の、黒髪の美しい女がジョセフの肩にもたれかかる。騒がしい酒場の中、近い距離から感じる甘い香水の匂い。今カウンター席にいるのは ジョセフと、先ほど現れたこの女だけだ。夜中にこっそりと宿屋を抜け出して来た身でありながら、今の雰囲気に朝まで浸りたい気分になってくる。 女の肩にさりげなく手をまわすよりも先に、とんでもなく強い力で肩を掴まれた。視線をそちらに向けないうちから不吉な予感がする。首筋を嫌な汗が流れた。 「年寄りのくせに盛りやがって。探したぜ、おい」 声の主のほうへと強引に顔の向きを変えられる。ジョセフは静かな怒りをにじませた承太郎に対して笑ってごまかそうとしたが、どうしても引きつってしまった。 先ほどの女にまともな挨拶もできないまま、店の外に連れ出された。 煙草に火を点け、さっさと先を歩いていく承太郎の後を追う。その後ろ姿を見ただけで、不機嫌だと分かる。 「いい歳して、そんなに飢えているのか」 「人聞きが悪いのう、わしを節操のないケダモノみたいに」 「俺だけじゃ満足できねえってことだろうが」 人通りの少ない夜道とはいえ、一緒に旅をしている他の仲間にも秘密にしている関係を口に出されて焦った。承太郎と同室になった日は部屋を抜け出す余裕はない。 部屋でふたりきりになった途端にそれまでの時間を埋めていくように触れ合い、身体を重ねる。孫との爛れた行為をためらっていた最初の頃が嘘のように。 しかし今夜は部屋が別れてしまったこともあり、たまっていた欲望を吐き出す機会を失った。遅い時間に別の部屋で寝ている孫を連れ出すわけにもいかず、酒場で少し飲んで 酔えば何事もなかったように眠れると思ったのだ。予想外の甘い誘惑にやられて、あの場所に行った目的を見失いかけていたが。 「探してくれたってことは、そんなにわしに会いたかったのか?」 「欲求不満のじじいが外で悪さをしねえように、見張ってねえとな」 「一緒にいられなくて寂しかったんじゃよー、なんてな!」 ジョセフは冗談のつもりで承太郎の背中を抱き締め、酒のせいもあり陽気に笑い声を上げた。怒って振り払われるかと思っていたが、気性が荒いはずの孫はろくな抵抗もせずに腕の中におさまっている。 何だか妙な空気になってきたので、調子に乗って耳元で名前を囁いてやるとその肩が小さく跳ねた。顔が見えない位置にいるのが残念だ。 「このまま宿に戻ったら、またお別れじゃな」 「……ああ」 「その前に、少しだけ遊んでいくか。お前の可愛いところ、見せておくれ」 そう言って承太郎の腰や胸元に触れた。こうしているだけで、今までの卑猥な行為の数々がよみがえる。完全に開き直っている自分が異常なのは分かっていた。 隣の部屋で寝ている仲間達に聞こえないように、互いに声を押し殺しながらベッドの上で貪り合う日々。 最中に幼い頃の承太郎の姿を思い出すと、胸に生まれるのは罪悪感よりも恐ろしいほどの興奮だった。想いを告げられた夜から、全てがおかしくなった。 建物の陰に連れていき、唇を重ねる。舌の動きも温かさも何もかもが愛しくてたまらない。 |