意地と告白 「シーザーっていろんな女の子とキスしてるんだろ、じゃあ俺ともしてくれよ」 「はあ? 何言ってるんだこのスカタン」 話にならん、と苦い顔をしながらシーザーはジョセフを追い払うような動作で手を振った。 確かに女とくちづけをしているからと言って、唐突に男から求められて素直に応えるわけがない。我ながら強引だとは思ったが、そこにシーザーの唇があるので仕方がない。 というより、欲望には正直なだけだ。この歳で我慢しろと言うほうが無茶は話だと。 まるで犬のような扱いをされて、ジョセフは少しだけ面白くなかった。何とかして意識させたいと思い、悪知恵をめぐらせた。 「もしかして、実力不足をごまかそうとしてるんじゃねえの?」 「……何だと」 からかうようなジョセフの言葉に眉根をひそめたシーザーを見て、ジョセフはにやりと笑った。 得意の挑発、こういう駆け引きは賭け事と同じくらい胸を躍らせるので、たまらなかった。 自分の一言で相手が心を乱す瞬間を見るのが好きだ。言葉を先読みして動揺を与えることも。自身にそう いう類の才能があることを、ジョセフは充分すぎるほどに自覚している。 どんな状況でも、この才能は最大限に生かさないともったいない。 「どうなのシーザーちゃん、俺を満足させる自信ねえの? それとも……怖い?」 シーザーの視線が鋭くジョセフを突き刺す。それを恐れるどころか、むしろ快感だった。いつもは気取ったシーザーが、ジョセフの挑発に乗り始めているのが、手に取るように分かる。 こちらに向かって1歩踏み出してくるシーザーは、絶対に逃がさないという殺気にも似たものを漂わせている。そして指先をジョセフの目の前に突き付けると、 「いいかジョジョ! 俺を挑発したこと、後悔するなよ!」 「ふふ、のぞむところよん」 ジョセフが薄く笑いを浮かべると、シーザーの両手がジョセフの肩を掴んだ。その手に、ぐっと力がこもる。 シーザーの端正な顔がこちらに寄せられ、その気配と匂いまで近くなる。女の子とする時はこんな怖い顔は しないだろと密かに苦笑していると、シーザーとジョセフの唇が重なった。 男の唇でも柔らかいんだなと、ジョセフはシーザーの背中と腰に手を回しながらなんとなく思った。そう した途端にシーザーの身体がびくりと震えた。 驚いたのか離れようとしているシーザーを、ジョセフは腕に力を入れて強く抱き締める。そして薄く開い ていたその唇に、舌を滑り込ませた。慣れているはずのシーザーは、余裕をなくした様子でぎゅっと目を閉じながらそれを受け入れる。 唇を重ねるだけだったくちづけは、この瞬間に深いものへと形を変えていった。身体と同じように避けよ うとしているシーザーの舌を、ジョセフは巧妙に絡め取って蹂躙していく。 シーザーは拒む様子もなくジョセフの舌の動きを受け入れ、ためらいながらも同じように舌を動かし始めた。 やがて唇を離すと、今度はシーザーの首筋に吸いついた。行為の痕跡が残るほど強く。 「っ、ふ……ジョジョ、お前こんな」 「俺、経験ないなんて言ってねえよな? それとも俺とこうするの嫌なのか」 「え……?」 「シーザー、俺はずっとお前とこうしたかったんだぜ。気付いてなかっただろ」 耳元でそう囁くと、ジョセフはシーザーの耳を軽く噛んだ。シーザーの身体が不自然に固まってしまう。 成人している男とは思えないような新鮮すぎる反応に、ジョセフは胸の奥から浮かんできた情欲を抑えることができずに いる。もっといじめてやりたい。 「っう、こんなことが許されるとでも」 「誰に許されなくたって構わねえよ、こうしたいって思えるのはお前だけなんだから」 「よくもそんな、恥ずかしいことを……平気な顔で」 平然とした態度を装いながらも、ジョセフはシーザーの目に宿っていた鋭い怒りがいつの間にか消え失せ 、代わりに戸惑うように揺れているのを見て興奮していた。ここまで自分の思い通りに事が進んでいくとは思わなかった。 「シーザー、お前は? 俺のことどう思ってんだ、受け入れてくれんの? 俺の気持ち」 第一印象は最悪だった。歯の浮くような甘い言葉を恥ずかしげもなく女に囁く、とんでもないキザ野郎だと。その後もことあるごとに衝突し、死んだ祖父のことまで侮辱してきた。 しかしワムウとの最初の戦いや、円柱での修行を経てシーザーとは少しずつ打ち解け、固い絆で結ばれた親友となっていた。そしていつの間にか、更に踏み込んだ関係を望み始めた。 シーザーはジョセフから目を逸らすと、気まずそうな表情で口を開く。 「受け入れる覚悟ができてなきゃ、お前のキスに応えているわけないだろう」 「へえ……嬉しいこと言ってくれるね。俺って愛されてるう?」 「これ以上は言わんぞ!」 「はいはい、分かったよーん」 かすかに赤面しているシーザーに微笑むと、ジョセフは再びその唇に顔を寄せて柔らかく重ねた。 |