挑発的な恋 「おれはシーザーが相手ならいつでもその気になれるんだけど、お前はどう思ってる?」 ジョセフに真顔でそんなことを言われたシーザーは、驚きのあまり声すら出なかった。ただ口を半開きにしながら、ベッドの上であぐらをかいて座っているジョセフに視線を向けることしかできずにいる。 一方のジョセフはシーザーと目が合うと、まるで何かを企んでいるかのように目を細める。それを見てシーザーは、こんな夜中に部屋を訪ねてきたジョセフを中へ入れてしまったことを激しく後悔した。すでにろくなことにならない雰囲気が漂っている。 大体、ジョセフがこういう表情をする時は厄介な目に遭う。修行のためにこの館に身を置くようになって以来、それは充分すぎるほど学んできた。 自分の中で鳴り止まない警告音を静めるためには、この疫病神を一刻でも早く部屋から追い出すしかない。 「……バカ言ってる暇があったら、部屋に戻ってさっさと寝ろ! 明日も早いんだ、修行中に居眠りでもしたらおれが許さんからな」 「こっちの質問に答える気ナシってこと? そんな冷たくしないでよ、それとも何かごまかそうとしてんの?」 「お、おれがお前相手に何をごまかす必要があるんだ」 「あれー? 今ちょーっと動揺しちゃった?」 「さっさと出て行け!」 ベッドに近づいてジョセフの逞しい腕を掴もうとした途端、シーザーは隙をつかれてベッドに引っ張り込まれた。気が付くと、何故かジョセフを押し倒しているような体勢になっている。 これはまずいと思いながら慌てて離れようとしたが、こちらをじっと見つめてくるジョセフから目を逸らせなくなった。一瞬、自分の中の時が止まってしまったかのようにも感じた。 まさかこんないい加減な奴に惚れているなど、そんな屈辱的な展開は絶対にあり得ない。 「ジョジョ……お前、一体どういうつもりだ?」 「おれ、ずっとシーザーの気持ちが知りたかったんだよね。お前は信じてないかもしれねえけど、本気なんだぜ? 聞かせてくれよ」 初めて顔を合わせた時の印象は最悪すぎた。波紋は弱くて使い物にならず、努力が嫌いでいい加減な性格の田舎者。そんなジョセフと組むのは勘弁だった。 そのはずが、今ではこの有様だ。やはり自分はジョセフのことが好きになっていたのだろうか。 「お前とは色々あったし、それに野郎同士だし、簡単に受け入れられるとは思ってねえよ。もしシーザーもおれと同じ気持ちなら、すげえ嬉しいぜ? キスができなくても、愛し合う方法ならいくらでもあるし」 ジョセフはそう言って、マスクの下で小さく笑い声を上げた。愛し合う方法とやらについてうっかり想像してしまい、シーザーは我に返って眉をひそめた。 現在進行形で付き合っている女はたくさんいるし、経験もそれなりにある。なのに、彼女のひとりもいないような奴にここまで振り回されるとは。 「あまり、おれを甘く見るなよジョジョ……!」 「へえ……だとしたらどうしてくれんの? 期待しちゃってもいいの? このままお前にすっごーいこと、されちゃったりとっかー」 「こっ、この野郎!」 とうとう限界を感じ、険しい表情を浮かべたシーザーを見てもジョセフは全く動じていない。この流れだと完全にこの男のペースに乗せられてしまう。密かに困惑していると、部屋のドアがノックも無しに突然開いた。 「ねえシーザー、ジョジョどこにいるか知らない? ずっと探してるんだけど」 開いたドアの外から現れたスージーQと目が合ったシーザーは、呆然としたままジョセフをベッドに押し倒したように見える体勢で固まっていた。 「あれ〜? スージーQ、おれに何か用?」 スージーQとシーザーの間に重苦しい沈黙が流れる中、ジョセフだけがいつもと変わらない平然とした調子で声を上げる。 「いや、その、これは違うんだ。誤解しないでく……」 「へんたい! 変態がいるわ! 助けてリサリサ様ーっ!!」 青ざめた顔のスージーQは、シーザーの話を最後まで聞かないまま走り去って行った。 「あーあ、これはやばいよねえ、どうするぅ?」 「全部お前のせいだろうが、反省しろ!」 憎らしいほど困った様子を見せないジョセフの顔面に、シーザーは思い切り枕を投げつけた。この件が師匠であるリサリサが知った時のことを考えると、今から頭が痛くなってくる。 やはりジョセフが絡むと、毎回ろくな目に遭わない。 |