夢でも構わない 「ずいぶん老けたな、ジョジョ」 すぐ近くを川が流れているこの場所で、草の上に腰を下ろしている青年がこちらを見るなり驚いた顔をした。懐かしい、そして愛しい存在だった青年はあれから50年も経った今でも、記憶の中に刻まれた姿のまま目の前にいる。 久々の再会だというのに、相変わらずの態度だ。昔は腹を立てて頻繁に口論になったりもしたが、今ではこちらに余裕ができたせいか、こんなやりとりも微笑ましく思える。 「そっちはあの時と同じ、若いままじゃな」 「おれはもう年を取らない、お前と同じ時間の中では存在できないのさ。本当はな」 青年はそう言って目を伏せる。昔なら決して弱い部分は見せなかった彼のそんな表情に、思わず胸が熱くなった。まるで昔に抱いていた気持ちがよみがえったかのように。 「お前はわしを覚えてくれていたのか」 「忘れるわけないだろう、お前みたいないい加減でむかつく奴のことは……心底、いい迷惑だったよ」 「わしは嬉しいよ、どんな形でもまたこうして会えたんだ。夢だって構わんよ、シーザー」 その名を呼ぶと青年はまっすぐにこちらを見つめる。かすかに、唇が動いた。何かを伝えようとしているのか。しかし再び黙り込んでしまった。 「シーザー、わしはこれからやらなくてはならんことがある。絶対に負けられない戦いじゃ、だからお前には見守っていてもらいたい。これ以上、何も失わんように」 この手を少し伸ばせば届く距離にいる青年に触れたかったが、想いだけに留めた。温もりを感じることはできないその身体に触れた時、自分と彼を阻むどうしようもないものの存在を思い知らされるからだ。 「ああ、分かった。その代わり、今こっちに来たら許さないからな。昔のお前とは背負っているものの重さが違うんだ。最後まで、見ていてやるよ」 「……そうか、ありがとう」 しかめっ面だった青年が少しだけ、笑顔を見せたような気がした。その直後、背後から突然肩を掴まれて我に返った。 「いつまで休んでいるつもりだ、じじい」 煙草の匂いを漂わせた孫の承太郎が、眉間に深い皺を刻みながらこちらを睨んでいる。 移動中に用を足しに行くつもりで仲間達から一旦離れて、気がつけば川のそばで感傷的になっていたのだから、嫌味のひとつやふたつ言われても仕方がない。 「すまんすまん、今行くよ」 苦笑いをした後、背中を見せて先を歩き始めた承太郎の後を追った。数歩進んでから振り返ってみたが、あの青年の姿はどこにもなかった。 確かにそこにいたのだという想いを、この胸に残して。 一緒に戦ってくれ、シーザー。あの時と同じように。 |