素直に言えない! 「私、そろそろ化粧とかしてみたいんですけど、どう思います?」 ドラッグストアの前を通りかかった時、ゆららが思い出したかのようにそう言った。 どう思うかと聞かれてもそれは個人の自由としか答えようがない。ゆららはまだ高校生なので、してもしなくても良いのではと思う。しかし今の時代、中学生がマスカラの 試し塗りをしている光景も珍しくないのだ。実際に見たことはないが、小学生でも自分の化粧ポーチを持ち歩いている気がする。 真雪自身は社会人としてのマナーが云々というよりも、童顔というコンプレックスをごまかすために必要なものだと考えている。更に背が低くて胸が小さい。化粧を落とせば 完全にゆららよりも年下に見えるくらいだ。 休日なので私服で横を歩いているゆららは今日も、頭の高い位置で長い髪をまとめたいつものポニーテールだ。それはともかく、まだ16歳の触り心地の良さそうな頬や、 アイラインを入れなくてもぱっちりとした瞳を見ていると、あんたは日焼け止めだけで充分と言いたくなる。 学生向けの、手頃な値段で買えるメーカーの化粧品が置いてある棚の前で、ゆららは興味深そうに商品を眺めている。 「そもそも何で、してみたいと思ったわけ?」 「理英が……あ、中学の頃からの友達が、毎朝学校にしっかり化粧してくるんです。ポーチの中見せてもらったら、アイシャドウとかグロスとかびっしり入ってて。行く場所とか 服によって色を使い分けてるんですって! そういうのって楽しそう!」 目を輝かせながらピンクのチークを手に取るゆららに、真雪はため息をついた。友達の影響か、と思いながらも高校生らしくて微笑ましい理由だった。 同じ棚からブラウン系のアイシャドウを選び、テスターの蓋を開ける。こちらを見ているゆららに目を閉じるように告げると、アイシャドウを指に取ってゆららの目蓋に塗った。 本当はブラシを使った方がきれいに仕上がるのだが、あくまで試しなので今はこれでいい。 濃い色も使って簡単にグラデーションまでつけると、結構上手くいったので早速目を開けさせて備え付けの鏡を見せる。 「わあっ、なんか急に大人っぽくなった感じ! すごいです!」 「最初は安いものを買って、慣れるまで練習すればいいんじゃない?」 「どうしようかなー、お手頃な値段だし買っちゃおうかなー」 先ほどのアイシャドウを手にして迷っている姿を眺めながら真雪は、何も塗らなくてもゆららは充分に可愛いと思った。決して口には出さないが。 |