恋と快楽の間で 震える手でピアスを外して机に置いた真雪に、ベッドに腰掛けている奈子が痛いほどの視線を向けてくる。 これからする行為の最中に失くしたり壊れたりするかもしれない、という理由はもちろんある。しかしそれ以上に、このピアスを着けたままだと、そばでゆららに見られている ような気分になるからだ。付き合ってはいないのだから、別に裏切るわけではない。それでも真雪のほうは、ゆららにはっきりと恋愛感情を抱えているので辛いのだ。 「ゆららから貰った大切なピアスも外したし、やる気充分ってとこ?」 よくここまで、人の胸を抉るような酷い台詞を言えるものだ。今の自分はそんな奈子を一方的に責められる立場ではないが。 「別に、そんな意味じゃないです」 「何、違うの? それ以外に思い当たらないんだけど」 自身の黒髪に指を滑らせた後、奈子は立ち上がって真雪の正面に来た。ゆららからは「落ち着いていて優しい」という評価を受けている、知的な雰囲気の美人。そんな奈子が 今は、ゆららには一生見せないであろう嘲笑を浮かべていた。ああ裏の顔だ、と思う。 しなやかな指先が真雪の頬や首筋を撫で、そのじれったい感覚に身を固くしていると奈子の唇が近づいた。目を閉じてそれを受け入れ、遠慮なく動いて攻めてくる舌に翻弄される。 懸命に息継ぎをしながら、唇が離れていくのを待った。 ちょうど近くまで来たから、と奈子が真雪の家を訪れたのはだいたい1時間前のことだった。 ドアを開けて顔を見た時にはもう、胸騒ぎがしていた。できれば密室でふたりきりになるのは避けたかったからだ。絶対に、ろくなことにならない。 血の繋がりはあるが、奈子とゆららは全く似ていない。外見も性格も何もかも。親子や姉妹ではないのだから似ていなくても不思議ではないが。 自分にはないものを持っている人間は、憧れを感じて眩しくもあり嫉妬で憎らしくもある。 奈子に対する感情を当てはめるならそれぞれ、ゆららは前者、真雪は後者に近い。 「私、加藤さんのこと嫌いなんです」 「そうね、知ってる」 「じゃあ何でわざわざ来たんですか」 「ドアを開けたのは、あなたの意思でしょ」 確かにそうだ。チャイムが鳴った時、ドアのレンズを覗けば誰が来たのか分かるので、出たくなければ居留守を使えばいい。先にインターホン越しに応対しても、今は手が 離せないとでも言って帰ってもらうこともできた。特に真雪は自宅で仕事をしているのだから、その手は充分に通用する。 そのはずが何故、ドアを開けて奈子を中へ入れてしまったのか。少し前に、ふたりで行った居酒屋での出来事が大きな原因だった。あれ以来、真雪は淫らな身体に変えられた。 ゆららのことで口論になった後、真雪は隙をつかれて奈子に身体を触れられた。最初は背中を撫でられるだけだったが、それが腰から尻のほうへと下がっていった途端に、真雪の心は乱れてしまった。 それがきっかけで行為は先に進み、服を捲り上げられて下着越しに秘裂や敏感な尖りを執拗に攻められた。それだけで真雪は、奈子の指を抵抗なく飲み込めるほど濡らしてしまった。 やがてスーツを脱ぎ捨て下着姿になった奈子と、居酒屋の個室で声を殺しながら絡み合った。その時のことはあまり思い出したくない。 今思えば、欲求不満だったのか。ゆららが欲しくても、素直になれずに告白すらできない。 それにまだ高校生のゆららを、間違った道に引き込むのは抵抗があった。 せめて大人になるのを待つなら、後4年は耐えなくてはならない。その時、自分は24歳だ。どうなっているのか想像がつかない。順調に仕事を続けているのかどうかすらも。 相手がゆららなら、抱いても抱かれてもどちらでも構わなかった。あの初々しくて真っ直ぐな子が、どんなふうにこの身体に触れるのか。自宅にひとりで居る時にそれを想像 しているといつの間にか指が貪欲に動き、数分も経たないうちに奥からあふれた体液で、下着をしっとりと湿らせた。硬くなった小さな尖りを指でいじりながら、控えめな 胸の膨らみに触れる。そうしていると、甘い喘ぎと共に生まれた淫らな気分に脳を侵されて我を忘れた。 それは食事や睡眠と同じように欠かせない習慣となり、発散せずにいると仕事に集中できなくなる。我慢をする必要はどこにもなかった。いっちゃう、とか。もうだめ、とか。 恥ずかしくて誰にも聞かせたくない言葉が、毎日している行為の最中に何度も出るようになった。 濡れた膣の中で動かす指が物足りなくなれば、更にもう1本増やす。ゆららは指より太いものなど持っていないので、それだけで充分だった。達した後、湿った下着やシーツなどが 想像の中で行われたゆららとの性行為を、真雪の中で忘れられないものにしていた。 奈子が訪ねてきたのは、そんな爛れた日々を送っていた時だった。 ベッドに仰向けになりながら、奈子の指の動きに合わせて喘ぐ。膣内の感じる場所は前回の居酒屋で知られているらしく、入り口辺りを集中的に指で刺激される。 そして指が2本に増え、更に激しく動かされていると快感は頂点に達した。同時に、膣から奈子の手に勢い良く何かが飛んだ。 「潮まで吹くようになったの? すごい淫乱」 奈子は愉快そうに言うと、真雪が出してしまったものを見せつけるようにして舐めた。ぼんやりしていて、一体どういうことなのか分からない。ただ、自分が段々といやらしい 身体になっていくのは何となく感じる。もっと気持ち良くなりたいと思ってしまう。 やはりあのピアスを外していて良かった。風呂と寝る時以外はずっと着けていたが、今のような状況では耐えられない。 真雪に嫌われていると知っているくせに、奈子は平然とこの家に来る。先ほど理由は聞いたが、はぐらかされてしまった。どうしても知りたい。気になる。 心はゆららを求め、そして身体は奈子から与えられる快感を待ち望んでいる。こんなことが許されるのだろうか。自分は本当に愚かだ。 |