考えたくない! 「実は昨日、真雪さんが男になった夢を見たんです」 買い物帰りに寄ったファーストフード店で、向かい合って座りながらコーヒーを飲んでいると突然ゆららがおかしな話題を振ってきた。嫌な予感しかしないが、一応続きを 聞いてみようと思った。 「ふーん、それで?」 「……怒られそうで怖いなあ」 「そこまで言っておいて、お預けはないでしょ。怒るかどうかは、聞いてみないと分からないじゃない」 ゆららは不安そうな顔をしたが、観念したのか紙に包まれたチーズバーガーをトレイの上に置くと、何故か椅子に背を預けて偉そうに両腕を組んだ。 「『いいか、おれの書く小説はただの文章の羅列じゃないぜ。もはや文学をも越えた域だね。そんな名作を読む気になれないなんてお前は、人生の大半をドブに捨てているような ものだ。生まれ変わって人生やり直したほうがいい』って言われちゃいました」 「ちょっと、何その超絶俺様キャラ! ていうか誰!?」 「だから夢の中で、男になった真雪さんが私にこう言ってたんですってば……って、やっぱり怒った!」 声を荒げた真雪に動揺したゆららが、組んだ腕をほどくと椅子ごと真雪から遠ざかった。 単なる夢の話だ、笑って聞き流せばいいのに大人げない自分はそれができなかった。つまりゆららは心のどこかで、真雪がもし男だったらそういう自信過剰な性格になると思っている かもしれない。だとすれば心外だった。しかもゆららが演じた夢の再現らしきものが、やけに気合いが入っていたのも腹立たしい。 小説家としてデビューして本も売れ始めている自分は、それなりに認められているのだ。しかし決して誰もが認める天才だとは思っていなかった。 いつも通っているヘアサロンで偶然手に取った女性誌の恋愛小説特集で、テレビにもよく出ている有名な評論家が真雪の小説を『リアリティを感じられない、子供じみたお粗末な作文』と罵り、最低の評価をつけていた。 確かに真雪は化粧が濃くて露出の高い服を着ているが、外見の派手さに反して男相手に遊び慣れた大人の女ではない。高校時代に片想いを経験しただけで、しかも今付き合っているのは4つ年下の女子高生だ。 純愛から不倫ものまで、男女の恋愛を書くには少しばかり経験不足かもしれない。 評論家には散々貶されたが、真雪の同じ小説にレビューを書いていた書店員や女子大生は、良い評価をつけてくれていたので救われた。常に褒め殺されていたいわけではないが、もやもやした心が癒された気分だった。 「真雪さんが女で良かった、男でああいうキャラだと面倒ですから。付き合ってて疲れるし」 「あんたね、私のこと勘違いしてない?」 「いや、全く違うとは言い切れな」 頭の中で何かが弾けた真雪は、注文した飲み物などがまだ残っていることにも構わずにゆららの手首を掴み、席を立った。 「んっ、はあ……っ」 女子トイレの個室に連れ込んだゆららの唇を強引に奪う。少々身長差があるので背伸びをしないと苦しいが、勢いに任せて突っ走る。最初は不慣れだった 舌の絡ませ方も、何度もこうしてキスしているうちに身についてきた。身体を密着させていると、制服の下に隠れたゆららの胸の膨らみを感じる。 「こんなとこで、嫌ですって、ば」 「本当に嫌なの?」 笑いながらそう囁き、ゆららのスカートの奥に手を滑り込ませる。下着の濡れた部分を指先で撫でると、布地越しに飲み込まれてしまいそうな感覚に愉快な気分になった。 感じたのか、ゆららが首を振ると頭の後ろでまとめている長い髪が揺れた。 「ねえ、そろそろ欲しいんじゃない?」 「ほしいです……」 真雪さんが、と口に出したゆららの表情は先ほどまでの虚ろなものとは違い、はっきりと欲情していた。真雪が驚いて隙を見せた途端に両肩を強く掴まれ、背中を壁に押し付けられる。 「え、何」 「こういう時、私より小さくて細い身体の真雪さんが頑張ってるのを見てると興奮します」 年下のくせに調子に乗っているゆららにお仕置きしてやるはずが、逆に主導権を握られてしまった。このままでは本来の目的から外れ、いやらしい姿を晒すのは真雪のほうだ。 ショートパンツも下着も脱がされて、薄く生えた茂みを軽く撫でられる。ある意味、膣を覗き込まれるよりも恥ずかしい。すでに成人しているのに、生え揃っていないそこを初めて晒した時は目を合わせられなかった。 幼い素顔や低い身長、そして膨らみきっていない胸も。この身体は中学生あたりのまま成長していない気がして鬱になる。だから化粧や服でごまかす必要があるのだ。 腰をこちらに向けるように言われて従うと、ゆららの指が湿った膣に潜り込んできた。唐突だったが痛みは感じない。壁に両手をつきながら甘い声を漏らした。 ドアの外から、店の客らしい複数の女の声や足音が聞こえてきて焦る。唇を噛み、中で動く指の感覚に耐えた。声は出さないようにしているが、快感からは逃れられない。 指が抜き差しされるたびに濡れた音が立ち、とろりとした生温かいものが内腿を伝い落ちていく。感じすぎて、涙まであふれてきた。 先ほどの店内で、ゆららがしていた話を思い出す。真雪はもしゆららが男だったらとは考えたくなかった。法律的に結婚もできて堂々と触れ合える関係になれるだろうが、 ここまで愛し合えなかったと思う。 「あ、もう……だめ、いっちゃう……」 外から人の気配が消えた後、真雪はゆららの指を締めつけながら達した。 結婚できなくても、人目を盗んで愛し合う関係でもいい。このままのゆららが好きだ。 |