関係ない!





食べ終わったカップラーメンのスープに、ご飯を入れたら怒られた。

「ちょっと、そんな貧乏くさいことやめてよね」
「貧乏くさいんじゃなくて、1回で2度美味しいってやつですよ。特にとんこつ味と、カレー味のカップ麺のスープはご飯と相性ぴったり……」

私が語り始めると、真雪さんの眉が不快そうにつり上がる。

「カレー味のご飯が食べたいなら、カレーライスを食べればいいじゃない」
「こんなことくらいで、本気になられても困ります。それに私、どうしてもカレーが食べたいわけじゃなくて、カップ麺を食べたついでにそのスープを有効に使ってるだけですから」
「それが貧乏くさいって言ってるのが分からないの?」

あまりにもしつこく文句を言う真雪さんに、私はとうとう我慢できなくなった。

「私がどんな食べ方をしても、あなたには関係ないじゃないですか!」
「……あーそうね、確かに私には関係ないかもね。あんたの顔を見てるとこっちまでしみったれてくるから、さっさと出て行ってよね!」
「言われなくたって、出て行きますよ!」

私はカップめんの容器に入っているご飯とスープをものすごい勢いで胃の中に流し込むと、挨拶もせずに真雪さんのマンションを出て行った。
真雪さんはあんなに激しい性格をしているけど、職業は小説家だ。女子高生から女子大生、主婦を中心に多くのファンが全国に存在している。
知り合ったのはちょっとしたきっかけで、もう3ヶ月くらい前のことだ。気性の激しい真雪さんに対して私はマイペースなので、あれくらいの口論はよくある。
でも今回は、私は全く悪くないとは言い切れなかった。カップ麺のスープの中にご飯を入れて食べるのは家ではよくやってるけど、家族以外の人が見たら気分を悪くするかもしれないことを考えていなかった。
くだらないことをあんなに強く主張してバカみたいだ、今更恥ずかしくなる。
少し歩いたところで雨が降ってきてしまった。髪や制服が濡れ、身体が冷えていくのを感じる。駅までの足取りが重く、そしていつもより遠い。 このまま家に帰っても多分ずっと、胸の中はもやもやしたままで晴れることはない。

「ゆらら!」

どこからか名前を呼ばれて辺りを見回すと、後ろから誰かが走ってくるのが見えた。だんだん近付いてくるにつれて、それが傘を持った真雪さんだと分かった。
私は色々な意味で驚いた。あれほど気分を悪くしていた真雪さんが追ってきてくれたこと。そして、貧乏くさいことに加えて化粧をしないで外に出るのが大嫌いな真雪さんが素顔で、しかも部屋着のままで走ってきた。 何もかもが信じられなかった。言葉が出てこない。

「まゆきさん……」
「あんた、びしょ濡れじゃないの。かっこ悪い」
「だって急に降ってきて、傘もないし」

真雪さんは私よりも少しだけ低い位置からこちらを見上げながら、開いた傘に私を入れてくれた。冷たい雨粒は、傘に守られた私と真雪さんを避けるように延々と地面に吸い込まれ続けている。

「まあ……私もちょっと言いすぎたかなって思って。今日は、そういうことにしておくから」

そう言って真雪さんは、私の顔に張り付いていた濡れた髪を指で払ってくれた。

「とりあえず戻って、髪くらい乾かしていけば」
「いいんですか?」
「私がいいって言ってんだから、いいんじゃない?」

素っ気ない口調や態度には、もう慣れている。時々見せてくれる優しさが好きで、それが嬉しいから嫌いになれない。
ひとりで歩いてきた道を、今度は真雪さんとふたりで引き返していく。
今降っている雨も、きっと長くは続かない。同じ傘の下に居る真雪さんの横顔を眺めながら、そんな気がしていた。




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2010/3/25