深度 堅苦しいパンツスーツを脱ぎ捨てたその下からは、濃密な女の匂いがした。 白いレースのついた清楚なデザインの下着が、豊かな胸の膨らみや引き締まった尻を包んでいる。 数日前に従妹である森下ゆららに紹介されて、知り合ったばかりの相手に対して何のためらいもなく下着姿を晒す、この加藤奈子が恐ろしい。 脱いだシャツを手にしながらやけに冷静な目でこちらを見下ろして、これからどうしてやろうかと考えているのだろうか。冗談じゃない。 畳に仰向けに転がった体勢の真雪は、それを眺めながらとろける意識を必死で引き戻そうとしていた。ミニスカートの奥ですっかり濡れた秘裂を露わにしていると、 ここが週末の騒がしい居酒屋であることを忘れそうになる。個室とはいえ、おかしな声を上げ続けていれば部屋の外に漏れてしまう。 爪先に引っかかっている、自分の愛液で湿った下着。狭い膣を犯していた奈子の指の感覚を思い出して、真雪は唇を噛んだ。 その日の夕方過ぎに町のドラッグストアで買い物をした後、店を出たところで真雪は奈子と再会した。 ゆららの従姉で、小学校の教師。奈子に関する情報はそれくらいだが、少なくとも真雪にとっては不愉快な存在だった。憧れの従姉と偶然出会えたことが嬉しかったのか、 ゆららは普段以上に締まりのない顔で奈子を真雪に紹介した。 それはいつも、真雪と居る時は決して見せない顔だった。4つも年下のくせにとにかく生意気で、真雪に対して容赦なく突っ込みを入れてくる。真雪さんって大人げない ですね、とか。化粧濃すぎるんじゃないですか、とか。そういう時は大きなお世話だと言って跳ね返しているが、そんな他愛のないやりとりすらいつの間にか楽しくなっていた。 活字嫌いのゆららは、真雪が書いた小説を1ページも読んだことがない。強制的に読ませる気は起こらず、仕方のないことだと少し諦めているが、心の片隅では寂しかった。 漫画やドラマになったら絶対読むし観ますよ、という言葉も慰めにすらならない。本当に触れてほしいのは、他人の手が加わったものなんかじゃない。 読者からの手紙やメールを読んでいると、どうやら真雪は恋愛経験が豊富だと思われているらしい。しかし実際は、それほど多くは経験していない。書いている話の大部分は 想像で、不倫の話を書いていたからといって真雪自身に不倫の経験はない。それどころか今の真雪が誰よりも関心があるのは男ではなく、生意気なことばかり言う女子高生だ。 そんな中で、奈子の登場は真雪にとって衝撃的すぎた。奈子をまるで女神か何かのように崇めているゆららを見ていると、複雑な気分になった。 ゆららに指摘されて、それがようやく嫉妬だと気付いた頃にはもう手遅れだった。 「加藤奈子さん、ですよね」 「あなたは、この前ゆららと一緒に居た……河合真雪さんでしょ。小説家の」 「そうです」 「あの時どうして、ゆららの制服を着ていたのかって聞いてもいい? 趣味?」 「何となく着てみたかっただけです、趣味ではありません」 ここまでの短い会話で、真雪は違和感があった。言葉では表せない、何かが。はっきりと分かるのは、奈子はゆららが居た時とはずいぶん表情も雰囲気も違うことだ。 微笑んでいても、目は全く笑っていない。やけに冷めている。初対面で真雪が威嚇するような態度を取ったためか、やはり印象は悪いようだ。 「……加藤さん、これから時間ありますか」 「私に用があるの?」 「ええ、食事でもしながらゆっくりと。お金は私が出しますので」 「あなたに奢ってもらわなくても、私だって働いてるんだから大丈夫」 一瞬だけ、ふたりの間で見えない火花が散った。 居酒屋で個室に案内されて、真雪と奈子はそれぞれ食べたいものを頼んで食事を済ませた。酒は一滴も飲んでいない。楽しく飲み交わす相手ではないのだと、互いに感じ取って いるからだ。 奈子は幼い頃のゆららの思い出話をした後で、あの子のことなら何でも分かると余裕の表情で語った。いちいち誇らしげなのが腹立たしい。 「ゆららの恋人気取りですか」 「恋人じゃなくて、従姉だから」 「どうせ思わせぶりな態度取ってるくせに、この大嘘つき」 「あなたが何でそこまで怒るのか、分からないんだけど」 「……バカにしないでよ!」 パンツスーツを着こなす長身も、真雪のように濃い化粧をしなくても色気のある美しい顔立ちも、そしてゆららからの熱烈な想いも。 自分にはないものを全て持っている、この女教師が憎らしい。汚してやりたい、みっともなく泣かせたい。 真雪は立ち上がると、テーブルの向こうに座っている奈子のそばに行く。そして畳に両手をつき、目線の高さを合わせて顔を近付けた。奈子は無表情のままだ。 「まさか、従妹のゆららに手を出したんじゃないでしょうね」 「そんなことまで聞くの?」 「さっきの語りっぷりを聞いていたら、そうじゃないのかと思いまして」 「手を出すっていうのは、こういう意味?」 奈子はこちらに手を伸ばすと真雪の背中から腰、そして尻へと流れるような手つきで撫でていった。予想外の愛撫を受けて、真雪は身体を小さく震わせる。 「もしかして、感じた?」 「っ、う……」 囁き声すら刺激になる。こうして真雪をいじめるのがたまらないと言わんばかりの、奈子の薄い笑み。ゆららにはおそらく見せたことのない表情だ。見せてやりたい。 あんたの大好きな従姉の奈子さんは、実はこんな顔をするようなとんでもない女なのだと。 畳に押し倒された真雪に、奈子が覆い被さってくる。オフショルダーのTシャツを捲り上げられ、相手は欲情した男ではないのにじわじわと恐怖を感じつつあった。 「すごい派手な下着……でも、こんなに小さい胸じゃスポーツブラでも余りそうな感じ」 今まで何をしても大きくならなかった胸の薄さを指摘されて、羞恥と怒りで頬が熱くなる。 奈子の手は更に動き、今度はミニスカートの奥へと潜り込んできた。 ショーツの布地越しに指先で秘裂を何度も擦られ、小さく尖った特に敏感な部分を軽く引っかかれた途端に、真雪は堪え切れずに声を上げた。無意識に熱い息が漏れる。 真雪の中に生まれて大きくなりつつある、淫らなもどかしさ。それに気付かれてしまったのか、奈子は紐のように細いショーツの両端を摘んで脱がしていく。それは真雪の 生足を滑り、片方の爪先に留まるだけの頼りない存在になった。 奈子の中指が真雪の秘裂を割り、つぷっと音を立てて膣に沈んでいく。充分に濡れているせいか、更に人差し指まで入り込んできても痛みは感じなかった。中で指を折り曲げ られると、自分でも信じられないほどの快感が襲ってきた。 「ちょっ、待っ……嫌っ!」 「嫌じゃないでしょう? あなた、私に触られているだけで濡らしていたくせに」 「ひっ……そんなに動かさないで……」 「さっきまでの威勢はどうしたの、涙目になってて気持ち良さそう」 真雪の痴態を目の当たりにしても、奈子は淡々とした言動を崩さない。例え興奮していても、男のように身体の中心が分かりやすく反応するわけでもないので、奈子の考えが全く 読めなかった。 ずっと昔から、ゆららの前では知的で優しい従姉として振る舞っていたのだろう。こんな本性など欠片も見せず、おそらく完璧に。ここまで外面を使い分けられる器用さも、 真雪は持ち合わせていない。求めても手に入らないものだ。 「せっかくだから、もっと楽しみましょうか。真雪さん?」 膣から指を引き抜くと、奈子はくすくすと笑いながら身を起こして上着のボタンを外した。羨ましいほど豊かな膨らみが、白いブラウスの胸元を押し上げている。 底の見えない恐怖と、浅ましく疼く身体。奈子から与えられる快感や屈辱は、時が経つにつれて深くなっていく。 最後に残った意地が砕け散るまで、それほど時間はかからない。認めたくない予感が真雪の意識を暗く覆った。 |